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スマートシティのコミュニティ形成に不可欠な3つのデザイン法則【第25回】

藤井 篤之、林 智彦
2023年6月1日

成功法則2:「視覚化」=指標を数値でわかりやすく示す

 デザインの「視覚化」とは、「どのようなゴールを目指すのか」「何を大切にしているのか」といった目標に対し、「どれだけ達成できているか」という指標を数値として分かりやすく示すことである。

 「視覚化」を実現した事例に、アラブ首長国連邦・ドバイ首長国の「Dubai Happiness agenda」がある。「ドバイを地球上で最も幸せな都市にしたい」というビジョンを実現するための施策だ。都市居住者や来訪者の「幸福度」を測定する独自の科学的・体系的アプローチを採用し、都市全体の幸福度指数として可視化。そこから新たなニーズを発見し、幸福度をさらに高めるための改善をうながす。

 日本では「PoliPoli」というサービス事例がある。日本のスタートアップ企業が「明日の政治は、あなたがつくる」というキャッチフレーズのもとに立ち上げたプラットフォームであり、政策の進展にコメントや政治家との面会といった手段で協力できるサービスだ。社会の仕組みづくりに役立つようなアイデアや提案を投稿して行政に届ける機能もあり、実際に官公庁や地方公共団体の政策に取り入れられた実績も多い。直接的な数値を扱わないものの、さまざまな意見を視覚化し政策や戦略に活用するという点で参考になる。

 こうした視覚化の取り組みは、政府や都市全体に関わるような大規模なものである必要はない。限られた地域コミュニティという範囲でも、十分に役立つデザインの考え方である。

 例えば、筆者は実際に居住する地域を対象にした「こども安全マップ」を作成している。年1回、紙で配布されていた地域の地図をデジタル版(Googleマップ版)に作り変えたもので、いつでも情報を閲覧したり新しい情報を追加したりができる。こども安全マップの公開により、地域の子育てコミュニティの参加者がマップづくりにも積極的に参加するなど、安全意識が高まる効果が得られている。

成功法則3:「エンタメ化」=市民が楽しめるサービス・仕組みを提供する

 「エンタメ化」とは、サービスや仕組みのなかにゲームのデザイン要素を応用するゲーミフィケーション技術を取り入れるなどにより、市民が“ワクワク”“ドキドキ”しながら楽しめるようなサービスや仕組みを作り上げる考え方である。

 スマートシティのデザインは、たとえ市民主導で進めたとしても、コンセプトや指針を押しつけたり、厳しいルールで縛りつけたりしては、なかなか上手くいかない。仕事や子育て、介護で忙しく、コミュニティへの参加や行政サービスの利用に無関心な市民にも、参加への前向きな意識を持ってもらえるような仕掛けが必要である。

 「エンタメ化」の代表的な事例に、米国オレゴン州ポートランド市の「Summer Free For All」がある。毎年、夏休みの期間中に提供される市民向けプログラムだ。市の行政当局が各コミュニティや非営利団体、アーティストグループ、地元企業などと連携しながら、コンサートや映画上映など家族で楽しめるイベントを無料で開催する。市民を楽しませる仕掛けを盛り込む「エンタメ化」によって、コミュニティとしての一体感を高めている。

 ポートランド市は、こうした取り組みをはじめ、子育てや食、おしゃれ、持続可能性といった先進的な各種施策を展開していることでも有名だ。米国メディアが実施する各種調査結果でも常にランキング上位に名を連ねており、「米国で最も住みたい街」の1つに数えられている。

 エンタメ化の波は日本にも少しずつ押し寄せている。特に都市の街区単位で進められているスマートシティでは市民が楽しめるサービスや仕組みが見られるようになってきた。

 例えばJR東日本が建設中のスマートシティ「高輪ゲートウェイシティ(仮称)」では、スマートシティの将来を担う子供たちが楽しみながら街づくりのアイデアを形にする教育ツールを開発するなど、市民主導の「エンタメ化」が進められている。そのために、国土交通省の3D(3次元)都市モデル「PLATEAU(プラトー)」を活用したデジタルツインを構築している。

市民のモチベーション向上に必要不可欠な要素

 内閣府の「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」は、スマートシティにおける重要な施策の1つに「新しいサービスを出し続けること」を挙げている。日本でスマートシティの取り組みが始まってから10年以上が経過するが、その間も技術は日進月歩で進化している。今後もスマートシティを標榜していくためには、新しいサービスや仕組みをデザインし続けることが欠かせない。

 しかし、新しいサービスや仕組みを、スマートシティを推進する地方公共団体やスマートシティの運営に関わる企業・事業者だけが考え続けるには無理がある。やはり市民主導で地場の企業・事業者を巻き込みながら新しいアイデアを出し続け形としてデザインしていく必要がある。

 アクセンチュアでは「分散化」「数値化」「エンタメ化」を、スマートシティ関連ビジネスを展開するうえで特に重要視している。これら3つのデザインは、スマートシティのステークホルダーである市民全体のモチベーション向上にも必要不可欠な要素に位置づけられる。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

林 智彦(はやし・ともひこ)

アクセンチュア ソング/アクセンチュアベンチャーズ プリンシパル・ディレクター。慶應義塾大学卒業後、アーティストとのクリエイティブ会社とロボットスタートアップを経営した後、博報堂を経てアクセンチュア入社。Web3/メタバース、カーボンニュートラル、スマートシティなどにおける最新の顧客体験開発や、マーケティング、スタートアップ協業に取り組む。カンヌライオンズ、文化庁メディア芸術祭、日本賞などテック・アート・広告分野で多数受賞している。