- Column
- スマートシティのいろは
スマートシティのコミュニティ形成に不可欠な3つのデザイン法則【第25回】
地域コミュニティは、デジタル以前の街づくりにおいても一定以上の役割を果たしてきた。とはいえ従来のコミュニティには、参加できるメンバー数や発揮できるケイパビリティ(能力・力量)に規模的な制約があり、できることが限定的だった。
それに対しデジタル技術を積極的に活用したスマートシティでは、より大規模なコミュニティの運営が容易であり、街づくりや新サービス創出における市民参加のインパクトが大きくなる。
アクセンチュアでは、コミュニティに参加する人のマインドセットを4つの類型に分類している(図1)。この時、コミュニティの価値は、積極的かつ情緒的なつながりを持とうとする人が集まるコミュニティほど高まると考える。 つまり、コミュニティ活動を成功に導くには、そうした人たちの参加を促す仕組みや仕掛けを用意することが鍵になる。
スマートシティのデザインに重要な3つの成功法則
ステークホルダーの参加を促す仕組みや仕掛けとして大きな位置を占めるのが、スマートシティにおいて提供する、さまざまなサービスであり、そのデザイン(設計)が重要になる。筆者らがスマートシティの街づくりやサービス創出に取り組んできた経験・知見から、成功に導くためのデザインには(1)分散化、(2)視覚化、(3)エンタメ化の3つ法則がある(図2)。
成功法則1:「分散化」=スマートシティを市民主導にする
デザインの「分散化」とは、公共の場における“オーナーシップ”を市民に渡し、みんなで共有し、共同で運営できるようにするという考え方である。街づくりやサービス提供の受益者である市民に主導的役割を渡し、“いつでも・どこでも・誰でも”が利活用できる共創型でスマートシティをデザインしていくことが望ましい。
従来の街づくりや行政サービスの提供は、地方公共団体(都道府県・市町村)が主導し、構築を受託した企業が企画・デザインし、そこに市民が参加するという、一方的かつ中央集権的なスタイルで進められることが一般的だった。
オーナーシップの「分散化」を実際に進めたサービスデザインの事例の1つに「Edible Cities Network(EdiCitNet)」がある。都市における食料の生産・流通・使用を統合したソリューションである「ECS:Edible Cities Solution」の実装を目指すプロジェクトで、EU(欧州連合)の「Horizon 2020 プログラム」から資金提供を受けている。
EdiCitNetのコンセプトは、菜園を学校や公共施設、道路といった公有地、および個人所有の私有地に設け、そうした場所を市民に開放することで、誰でもが自由にハーブや野菜を植えたり収穫して食べたりしてもよいというものだ。通常は利用が制限されるような場所も含め、持続可能性や健康といった目的のもと、それぞれの市民が主導的に参加できる街づくりを実現している。
日本における「分散化」の事例には、長野県茅野市のAI(人工知能)技術を使った乗合オンデマンド交通サービス「のらざあ」がある。実証運行を経て2022年8月に運行を開始し、同9月に廃止された市内13のバス路線の運行エリアを引き継いだ。対象エリア内であれば、乗りたい場所から行きたい場所へ、利用者の予約に対し最適なルートや配車をAIがリアルタイムに選定する。茅野市は市域が広いことに加え、マイカーなどクルマ社会の定着により路線バスの利用状況が低迷し、定時定路線の運行・維持が困難な状況にあった。
同様の事例に、愛知県豊明市の市民主導のオンデマンド交通サービス「チョイソコ」がある。大手自動車部品メーカーが事業主体になり、2018年7月からの試験運行を経てサービスを開始した。高齢者など地域住民の外出機会創出や、地域の店舗・病院といったスポンサーの集客増につながる効果が得られるとして、日本全国に広がっている。これらオンデマンド交通サービスは、過疎地域を抱えたスマートシティにとって市民主導の新しい地域公共交通のあり方を示す手本と言えよう。