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安心・安全な街づくりに向けた“リアル空間”のセキュリティ【第26回】
兵庫県加古川市:ビーコンタグで子供や高齢者を見守る
兵庫県加古川市は「加古川市スマートシティ構想」を策定し、本格的な取り組みを進めている。デジタル技術の活用により、住民生活の質を高め「誰もが豊かさを享受でき、幸せを実感できるまち加古川」の実現が目標だ。その一環として、小学生の子供たちや認知症高齢者の居場所を知らせる「見守りサービス」を構築している。
地域の小学生の通学路や学校周辺を中心に、市内1500カ所以上に「見守りカメラ」を設置。子供や高齢者には、ビーコンタグ(BLE:Bluetooth Low Energyを用いたタグ)を配付した。ビーコンタグを所持する子供や高齢者が見守りカメラ付近を通ると、カメラに搭載された検知器がタグを認識し、その位置情報を通過履歴として自動的に記録すると同時に、スマートフォン用アプリケーションまたはメール経由で居場所を知らせる。
米ラスベガス:ビッグデータ解析で交通事故や犯罪を未然に防ぐ
米国ネバダ州のラスベガス市は、街中の交差点に設置した監視カメラの映像データを収集・集約・分析することで、交通事故の回避や防犯に役立てる取り組みを進めている。映像データは、通行する車のナンバープレートを読み取るほか、不審者や迷子の発見、事件発生が想定される人だかり場所の特定といった用途でも活用できる。街中には音響センサーも設置し、銃声や悲鳴などの検出に利用している。
2018年の実証実験では、映像データの解析から、特定の交差点で交通事故につながる逆走が多く発生していることが把握できたという。その後も対象エリアを順次拡大し、2019年からは、同市が掲げる「スマートパーク・イニシアティブ(スマートパーク事業)」の一環として公園にも導入。住民や観光客の安心・安全を確保すると同時に、市職員がリアルタイムで公園の利用状況を把握して公園運営・保全の迅速な意思決定にも役立てている。
ビデオ監視システムを活用する事例には、シンガポールの「セーフシティ・パイロットプログラム」もある。既存のビデオ監視システムに高度な分析機能を統合することで、状況認識の向上や、業務の合理化、公共安全や事件に対する市当局の対応時間の短縮などを図っている。
オープン志向とクローズド志向のバランスを考える
リアル空間のセキュリティの施策を推進するにあたっては留意すべきポイントがある。「オープン志向」と「クローズド志向」のバランスをいかにして保つかということだ。
リアル空間のセキュリティを担保しながら、街のオープンさや賑わいを両立させることは容易ではない。制約を強めれば強めるほど、街の多様性や賑わい、新しいカルチャーを育む素地は、どうしても損なわれてしまう(図1)。
米ラスベガス市のように、観光客が来訪することで経済が成り立っているスマートシティでは、オープン志向を重視した施策を講じなければならない。一方で街に暮らす住民の安全性や快適性を優先するスマートシティでは、ある程度の制限を許容したうえで、よりクローズド志向のコミュニティへ舵を切ることになる。
次回は、スマートシティのデジタルインフラやサービスを守るサイバー空間のセキュリティについて解説する。
藤井 篤之(ふじい・しげゆき)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。
鈴木 広崇(すずき・ひろたか)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 コンサルティンググループ プリンシパル・ディレクター。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了後、2006年アクセンチュア入社。公共領域を専門とし、自治体の行政DX、スマートシティの戦略策定、公益法人改革等の支援実績を有する。