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スタートアップ企業との関係強化に動くスマートシティ【第30回】

藤井 篤之、増田 暁仁(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2024年1月18日

スタートアップ企業に世界的な注目が集まっている。大企業にはなし得ないスピード感でイノベーションを起こせるとの期待感からだ。データとテクノロジーを駆使し効率的な社会を実現するスマートシティの実現においても、スタートアップ企業との関係が強まっている。その関係を理解するために今回は、スタートアップ企業を取り巻く現状とトレンドについて解説する。

 国内スタートアップ企業への投資が加熱している。調達額は2014年から2022年の間に6.6倍に増えた。とりわけシード・アーリーステージへの投資が増えているのが最近のトレンドだ(図1)。その背景には、イノベーションによる経済成長への期待やコロナ禍による「カネ余り」、スタートアップエコシステムの構築を急ぐ政府によるスタートアップ育成に向けた5カ年計画の推進などがある。

図1:国内のスタートアップ企業による資金調達額と調達社数の推移

 スタートアップの企業数や資金調達額が最も多いのは、ヒト・モノ・カネ・情報が集まる東京だ。だが、資金調達件数においては地方の健闘が目立つ。イノベーションの起爆剤になり得るスタートアップ企業に可能性を見いだす地方自治体と、その要請に応えるスタートアップ企業が増えているためだ。

 政府が打ち出す「Beyond Limits. Unlock Our Potential ~世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略〜」に基づいて選定された拠点都市は、そうした流れを象徴する存在だといえるだろう。各自治体とも、地域の特性や地の利を活かした特徴を打ち出している。同時に、大企業や経済団体、ベンチャーキャピタル(VC)、アクセラレーター、大学などを巻き込み、それぞれが特色ある拠点づくりを進めている。

存在感を高めるインキュベーション施設

 ここ数年、特に存在感を高めているのが、スタートアップ企業を対象にしたインキュベーション施設である。事業運営のためのオフィスや研究開発のためのスペースを提供するだけでなく、創業初期の成長に必要な、さまざまな支援を提供している。その提供価値は大きく次の4つである。

提供価値1 :人材獲得や企業文化の醸成につながる魅力的な建物・オフィス空間
提供価値2 :事業開発・研究開発に必要な設備や機器・装置の提供
提供価値3 :市場のキープレーヤーや協業相手とのネットワーク形成
提供価値4 :投資家やインキュベーター、メンターとの出会いの場

 一方、インキュベーション施設が、地域の自治体や企業と協力して、スタートアップ企業を支援するメリットとしては、以下などを挙げられる。

メリット1 :スタートアップ企業の集積によるブランド力の向上
メリット2 :イノベーションによる新たな産業創出への期待と地域経済の活性化
メリット3 :生産人口の増加による税収の増加
メリット4 :不動産価値や施設周辺の土地価格の上昇

 インキュベーション施設の代表例の1つに、東京・渋谷にあるスタートアップ向けシェアオフィス「Plug and Play Shibuya」がある。ベンチャーキャピタル(VC)とアクセラレーター機能を備える米Plug and Playが運営する。米シリコンバレーに本社を置く同社は2017年に日本に進出した。

 Plug and Playの強みは、大企業との連携や、オープンイノベーションの支援、アクセラレータープログラムなど、スタートアップ企業の成長に必要なヒト・モノ・カネ・情報に関わる支援をシームレスに提供できることだ。同社が投資・支援したスタートアップ企業には、米Dropboxや米PayPalなど30を超えるユニコーン企業が名を連ねるなど、高い知名度と実績を誇る。

 東急不動産が運営するスタートアップ企業向けシェアオフィス「GUILD SHIBUYA」も、Plug and Playと同じく、ヒト・モノ・カネ・情報が集積するリアルな場としての役割を果たしている。

 具体的には、シード・アーリーステージ投資に特化したVCをはじめ、スタートアップ支援のプロが同施設を利用しており、起業家同士の交流会や成功起業家を招いた勉強会を盛んに開催している。ストックオプション(新株予約権)による賃料の一部支払いができるスキームの導入など、スタートアップ企業のキャッシュ負担を抑える取り組みなどが注目を集めている。

 シェアオフィスではないが、大企業が自社オフィスをビジネス開発や実証実験の場として解放している施設も近年増えている。「アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京」が、その1つである。

 アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京は、大企業とスタートアップ企業、および行政・大学機関、研究施設がアイデアを出し合い、ビジネスを創出する場として立ち上げられた。プロトタイプの開発やデジタルクリエイティブを製作できるスタジオも用意する。アクセンチュアのコンサルタントやデータサイエンティストが、構想から実証実験、サービス化までの一連の流れを支援する。