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デジ田の交付方針転換で地域DXは「作る」から「使う」へ【第33回】

藤井 篤之、村井 遊(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2024年8月21日

実績あるサービス/システムの利用と都市OSの共用を推進

 では、どのような点が見直されたのか。方針変更のポイントは主に2つある。(1)交付金のより効率的な活用を促すため、すでに実績のあるサービスやシステムの利用を推進する、(2)都道府県単位で都市OSの共用を進める、だ。

方針転換1:「作る」から「使う」へ

 都市OSの導入と活用が進んできた先進自治体では、都市OS上で稼働するスマートシティサービスが数多く開発・利用されてきた。それらをデジタル実証の優良事例として紹介するべく、デジタル庁は2023年8月に通称「カタログサイト」を公開。まずは、デジ田交付金(デジタル実装タイプ)のTYPE2/3にあたるマイナンバーカードを利活用するサービス/システムを行政分野ごとに分類した。

 2023年12月に公開した第2版では、行政分野ごとに推奨する機能をまとめたモデル仕様書のほか、採択実績があり自治体に一定の導入実績があるサービス/システムを紹介している。現在は2024年春版が最新版である。

 カタログサイトでは、地域DXやデジタルを活用したまちづくりを推進したい全国の自治体は、通販サイトで商品を選ぶかのように、国が認めたサービスやシステムを選べる。つまり、各自治体がゼロからサービスやシステムを構築する必要がない。ムダなIT投資を減らせるだけでなく、優良事例として実績のある仕組みを横展開できる。まさに「どう作るか」から「どう使うか」へ重点を変える方針転換だと言える。

方針転換2:都道府県単位の都市OS利用へ

 データ連携基盤そのものの導入のあり方についても、従来の基礎自治体単位から、都道府県単位での導入に舵が切られている。サービスシステム同様、1700超の基礎自治体が、それぞれ独自に都市OSを構築するのはムダを生みがちだ。コスト面のみならず、IT担当者の少ない小さな自治体には荷が重い。都道府県単位で導入し、それを各自治体で共同利用するよう働きかけるようになっている。

 地域のニーズを聞く立場にある都道府県が都市OSを整備することによって生まれるメリットは大きい。域内の自治体が初期コストと運用コストを負担する必要がなくなる上、周辺自治体でのサービス連携も容易になるからだ(図2)。

図2:都道府県版データ連携基盤が目指す姿

 先行事例もある。福島県内5市が2024年3月に始めた都市OSの共有などが、その好例だ。福島県が導入したアクセンチュアの都市OSを、県内の半数近い27市町村が共同利用する。県民は、都市OS上に構築されたコミュニケーションポータル「ふくしまポータル」から行政手続のオンライン申請やデジタル防災サービスなどへアクセスできる。

 複数の市町村が利用するため、居住地のみならず、勤務先や親戚の居住地など、関連性の高い自治体の情報が入手できたり、自治体の枠を超えて共通フォーマットで行政手続きができたりする。利用可能なサービスが増えれば、市民生活の利便性はさらに高まるはずだ。

 実際、他の自治体に先駆けて2015年から都市OSを活用している福島県会津若松市では、市民が事前承諾(オプトイン)した29のデータをもとに、地域通貨決済やオンライン診療をはじめとする25のサービスが都市OSを通じて提供されている。

 2024年1月、デジタル庁が道府県単位で都市OSを整備・導入するよう促す方針を示したのは、この「福島モデル」での成功を手はじめに、小規模な市町村を取り残すことなく、日本全体で行政DXを実現しようという覚悟の表れでもある。

成功事例を全国に広げる行政DXのこれから

 都市OSの共有がもたらす効果は、上述した工期やコストの削減だけに留まらない。むしろ広域で自治体同士がつながること、また、異なる分野のデータがつながることでもたらされる利便性や新サービスは前例がなく、はるかに大きなインパクトを残せるだろう。

 とはいえ、スマートシティの実現に向けた取り組みには自治体により濃淡があるのが現実だ。「作る」から「使う」へを、いち早く実現するには、都市OSやサービスを導入するだけでは足りない。利用を推進し、市民生活に定着させるためには、行政の努力だけに依存するのは得策とはいえない。民間企業や組織、学術機関など、立場の異なる人々の連携と支援が必要だ。

 その連携と支援のための組織として期待が掛かるのが、2024年3月に発足した「デジタル化横展開推進協議会」である。組織名に「横展開」とあるように同協議会は、課題解決のための知見を普及させ、成功事例を全国に広げる役割を負う。知恵と情報を出し合い、優良なサービス/システムの紹介などデジタルな側面での情報共有のほか、それらをどう活用・定着させていくかといったアナログ側の面を含めて、行政DX、地方DXを加速させる。

 メンバーには、内閣府やデジタル庁の取り組みに賛同する自治体や民間企業、組織、大学、市民参加型のスマートシティコンソーシアムなどが名を連ねており、先進事例の標準化と普及に一役買うことになるだろう。都市OSのテーマでは筆者がリーダーを務めている。会津若松市のスマートシティへの取り組みを支えるアクセンチュアとしても、横展開推進協議会を通じて、デジタル技術とデータを活用した枠組みを全国に広げる活動に貢献するつもりだ。

 各方面で行われている努力が実を結べば、市民の生活圏全体を網羅するシームレスなサービス連携が進み、日本全体のITリテラシーも向上するだろう。優れたサービス/システムの情報や成功事例、都市OSの整備と共有は、そのための大前提になるのは間違いない。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

村井 遊(むらい・ゆう)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 シニア・マネジャー。東京大学大学院 工学系研究科 システム創生学専攻 修了後、2011年総務省に入省。通信関連業務に従事した後、2014年に会津若松市に出向し同市のスマートシティプロジェクト「スマートシティ会津若松」の立ち上げに関わる。2019年アクセンチュアに入社し、スマートシティ会津若松に民間の立場から継続的に関与。SIP(内閣府)のリファレンスアーキテクチャ策定や、会津若松市のスーパーシティ提案書の全体取りまとめなどを実施。