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デジ田の交付方針転換で地域DXは「作る」から「使う」へ【第33回】
地方のデジタル化を推進する「デジタル田園都市国家構想交付金(デジ田交付金)制度」が2022年4月から運用されている。その交付方針が2024年度から変化を見せ始めている。より効率的かつ有効な交付金活用を促すためだ。この間に国は各地でスマートシティのためのデータ連携基盤として機能する「都市オペレーティングシステム(都市OS)」の導入を進めてきた。交付方針の変化と共に今後、都市OSのモデルが、どう変わってきているかを解説する。
周知の通り、人口減少や少子高齢化、産業の空洞化は、日本の将来を左右する大きな社会課題になっている。内閣府とデジタル庁が進める「デジタル田園都市国家構想」は、テクノロジーとデータの積極的な活用によって、日本が直面する社会課題を解決し、全ての国民が便利で快適に暮らせる社会を目指す。岸田政権の目玉政策の1つでもある。
システム投資のフェーズは「乱立」から「共同利用」へ
この政策の実行を後押しするために整備されたのが「デジタル田園都市国家構想交付金(デジ田交付金)制度」である。Uターンやテレワークなど地方移住推進や地方創生の拠点を整備するものから、デジタル技術を地方の活性化や公的サービスに実装していくためのIT投資に活用されている。その範囲は、子育てや教育、医療の充実、防災対策や環境保全、公共交通の維持、観光や地域の産業振興など、さまざまな分野に広がっている。
なかでもデジタル技術の実装分野では、全国各地の地域DX(デジタルトランスフォーメーション)の原資として活用され、スマートシティのデータやサービスをつなぐ連携基盤としての「都市オペレーティングシステム(都市OS)」の導入および活用が全国各地で進んでいる。
都市OSの最大のメリットは都市やサービス分野を超えた「連携」にある(都市OSの特徴は第7回と第8回を参照)。都市OSが連携することで、データやサービスをつないで相互運用したり、データを流通させたり、さらには機能の拡張が容易になったりする。
都市OSが導入される以前の自治体ITシステムは、各自治体が独自仕様のシステムにこだわり、スクラッチ開発に固執するケースや、過剰なカスタマイズ要求によりコストが高騰するケースなど、経済合理性に疑問符がつくIT投資が散見された。
もちろん、地方自治の原則を踏まえれば、自治体の独自性は尊重されるべきなのはいうまでもない。だが、どの自治体でも取り組んでいるような領域(非競争領域)において独自性を発揮しようとすると、どうしてもムダが生まれてしまう。独自の仕様に固執すればするほど、導入コストのみならず運用コストも押し上げるのは明らかだ。
事実、地域の特色や自治体が抱える諸事情を加味してもなお、自治体がそれぞれの独自性をシステムの仕様や設計に反映しなければならないケースは非常に限られている。その内容を子細に見ていくと、従来の作業手順や入力項目の書き方が違う程度の違いが大半で、わざわざシステム化しなくても、システム側の仕様に合わせれば済んでしまうことがほとんどだ。
例えば、全国の自治体で一律に行われている行政サービスや、すでに別の自治体で利用されているサービス/システムなら、そのまま利用したほうがスクラッチ開発やカスタマイズに工期やコストをかける必要がなくなり、工期やコスト面で有利になる。
だからこそ国は、都市OSという連携に優れたデータ連携基盤を標準化し、そして全国各地での導入を推し進めてきた。これまでのITではできなかった課題を効率的に解決できるよう基盤整備を進めてきたのだ。そして、2022年のスタートから丸2年が経ち、全国の先進自治体で都市OSの導入および活用が進んだ今だからこそ、国は次のフェーズに入るべく方針の転換を図った。
2024年に始まったデジ田交付金の方針転換は、まさに行政DXを推し進めるための施策が、システム投資フェーズが「乱立」から「共同利用」へと移行したことを意味するのである。