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“攻め”の社会インフラとしてワット・ビット連携が計算・電力・通信を広域に束ねる【第41回】
計算層:電力のインテントを踏まえ計算資源を“仮想統合”し電力の過不足に応じて計算を動的に制御
電力層が「いつ・どこで・どれだけの電力をAI計算に振り向けられるか」を提示するのに対し、計算層の役割は、その条件(インテント)を受け取り、分散した計算資源を最適に束ね動かすことである。「電力が余っている場所で計算し、その結果をビットとして運ぶ」ためのハブの位置付けだ。
日本では老朽化する社会資本と、その電力制約がボトルネックになることが想定される。それだけに「どこにデータセンターを置くか」だけでなく「分散した計算資源をどう束ねて社会全体の計算力として扱うか」までが問われる。そこでの要件は次の3つである。
要件1 :異なる性質のワークロード(AI学習・推論・バッチ処理)を複数拠点にまたがって差配できること
要件2 :再生可能エネルギーの発電量や電力需給に応じて処理場所を広域かつ動的に最適化できること
要件3 :クラウド・地域DC・エッジが異なる事業者間でも連携できるよう相互運用性と標準化が担保されること
都市の近傍に巨大集中型データセンターを積み増すだけでは、電力・土地・冷却の制約の壁に早々に突き当たる。現実解は、分散した計算資源を「仮想的に一つの大きなデータセンター箱」として扱う構想である。
この構想は既に海外では実証が始まっている。米NVIDIAが出資するスタートアップの米Emerald AIが開発するソフトウェア「Aurora」では、電力系統からの信号を受け取り、データセンターのワークロードを自動制御する。再エネが余った時間帯には処理を増やし、系統が混雑した際には絞る。
英国では、National Grid、NVIDIAと米EPRI(Electric Power Research Institute:電力研究所)が共同で2025年12月、実証試験を実施した。そこでは、重要なワークロードを停止することなく電力消費を約30秒で30%削減できることを確認している。電力層からのインテントを受けて計算量を動的に制御するワット・ビット構想の具体的な実装例になる
この構想を日本で実装するには、さらに2つの要件がある。
要件1 :電力、セキュリティ、SLA(Service Level Agreement:サービス品質基準)といったワークロードの条件を記述する標準化されたインターフェースと優先度のポリシー
要件2 :分散した拠点全体を広域で統合調整(オーケストレーション)する仕組みと、そのためのインセンティブ設計だ。単独の自治体や個社間の契約だけでは難しく、広域での公益性を担保した合意と設計
これらの要件を貫く運転ロジックこそが「ワットをビットで最適化する」という発想の中身である。電力インフラだけを個別に最適化するのではなく、電力・ネットワーク・計算資源を一体として扱い、時間的・空間的にワークロードをシフトすることで、系統制約と出力抑制を緩和しつつAI時代の計算需要を支える。
計算・電力・通信を国家レベルの協調設計で束ねる
“守り”の社会インフラとしての老朽化対応と“攻め”の社会インフラとしての自律型ネットワーク・およびワット・ビット連携は、技術要素だけを見れば現実味を帯びつつある。だが、3層一体の運転モデルは緒に就いたばかりだ。
その根本的な理由は、スマートシティの設計思想そのものにある。従来のスマートシティは、1つの都市の中でセンサーからデータ、サービスまでを最適化する発想で設計されてきた。自律と分散の条件は整いつつあるが「都市間・事業者間をまたいだ協調」の設計は、これから本格化させていく必要がある。
ワット・ビット連携の狙いは、都市単位ではなく、もっと広い範囲で最適化することにある。再生可能エネルギーが余る地域と、計算需要が集中する都市圏をつなぎ、系統制約を回避しながらワークロードを最適配置するには、電力会社・通信キャリア・データセンター事業者・自治体が、都市の壁を越えて、共通のルールの下で情報と意図を共有し、調整し合う必要がある。これは個社や単一都市の取り組みの積み上げだけでは難しく、国レベルの設計が求められる。
政府主導のワット・ビット連携の議論を「3層の仕様と費用分担を決める場」として使い切ることが打開の鍵だ。電力側は「どの地域で、どれだけAI向け電力を引き受けるか」を示し、計算側は分散AIデータセンターの共通仕様を定め、通信側はAIトラフィックの優先度ルールをキャリア横断で標準化する。
自律型ネットワークとワット・ビット連携構想による“攻め”の社会インフラを、国家レベルの協調設計で束ねる。それこそが日本の都市を「自律・分散・協調を備えた、高レジリエンスかつAI時代の価値創出基盤たるスマートシティ」へと移行させるための現実的な道筋になる。
山田 達也(やまだ・たつや)
アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部ストラテジーグループ プリンシパル・ディレクター。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修士課程終了後、2011年アクセンチュア入社。通信業界を中心に新規事業・業務変革など幅広いテーマでの戦略立案を支援。近年は特に、生成AIなどを活用した経営改革や業務改革などにも注力。5G×産業変革ムック本、生成AIムック本などメディアにも多数寄稿。
増田 暁仁(ますだ・あきひと)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ シニアマネジャー。立命館大学文学部人文学科地理学専攻卒業後、2014年アクセンチュア入社。先進技術を中心とした新規事業戦略立案、スマートシティ戦略策定実績多数。近年は官庁やインフラ企業等の大規模変革案件に従事。
中野 陽太(なかの・ようた)
アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部ストラテジーグループ マネジャー。東京大学文学部 社会心理学専修課程卒業後、大手通信会社を経て、2020年アクセンチュア入社。通信業界の新規事業戦略立案・AI戦略策定など支援実績多数。特に通信業界におけるAI戦略・ユースケースに精通。
監修:藤井 篤之(ふじい・しげゆき)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。現在は戦略グループにおけるAI関連ビジネスのリードを務める。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。