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“攻め”の社会インフラとしてワット・ビット連携が計算・電力・通信を広域に束ねる【第41回】

山田 達也、増田 暁仁、中野 陽太(監修:藤井 篤之、アクセンチュア)
2026年5月28日

前回は“攻め”の社会インフラを「計算」「電力」「通信」の3層で捉え、通信の土台になる自律型ネットワークを整理した。今回は、計算と電力に焦点を当て「ワット・ビット連携」構想を中核に、計算層と電力層それぞれの課題と“守り”と“攻め”を束ねる協調の方向性を考える。

 前回、“守り”の社会インフラは「滅びない都市」の最低防衛ラインであり、“攻め”の社会インフラは「価値を生み続ける都市」を支えるための装置だと位置付けた。

 AI(人工知能)技術の利用拡大に伴い、それらを稼働させるための計算需要も急拡大している。それだけにAI時代の都市の競争力は、道路や上下水道といった従来の物理インフラに加え、計算資源と電力、それらを結ぶ通信という非物理基盤に強く依存するようになる。老朽化や人手不足への“守り”だけでは不十分である。

電力インフラと通信インフラを連携するワット・ビット連携

 その“攻め”の社会インフラの中核として議論されているのが、電力インフラと通信インフラを連携させる「ワット・ビット連携」である。電力・通信・データセンター(DC:Data Center)の各事業者が連携し「どの地域に、どんな電源を置き、どこに、どのようなデータセンターを置き、それらをどう結ぶか」に対し、ワット(電力)とビット(通信)を一体で見て、広域にまたがる社会インフラを設計し直す枠組みだ。

 この背景には、電力という資源の扱いにくさがある。電力は大量に貯めておくのが難しく、送電網は大規模電源から需要地への単方向の送電を前提に設計されてきた。それらが場所の制約を生んでいる。再生可能エネルギーの導入が進めば進むほど、電力系統では逆潮流や系統混雑が起きやすくなり「電力があるのに捨てざるを得ない」という出力抑制が各地で発生している。

 そこで重要になるのが「電力が余っている場所で計算し、その結果だけをビットとして運ぶ」というコペルニクス的転回だ。電力を遠くへ届けるのではなく、電力が潤沢な地域にデータセンターを配置し、そこでの計算処理と処理結果を通信で届けることで、電力を場所の制約から解放する。

電力層:「どこで発電するか」と「どこで計算するか」をセットで変える

 AI時代の計算需要を前提にすると、日本の電力層には、数十ギガワット級の需要増に耐えうる供給力と、再生可能エネルギーの変動を吸収できる柔軟性の両立が課される要件になる(図1)。これだけの電力系統の増強には数十年のリードタイムと、数兆円規模の投資が必要で、AI投資サイクルの速さとは全く噛み合わない。

図1:日本国内の電力需要のトレンド

 そもそも、再生エネルギーが潤沢な地域と、都市圏が地理的に離れている以上、送電容量がボトルネックになる。つまり再生可能エネルギーの導入が進めば進むほど、逆潮流や系統混雑が起き、出力抑制をせざるを得ない。増大する需要に対し再生可能エネルギーを有効活用できないジレンマだ。

 この課題を「送電容量を増やす」方向で打開しようとするのは、投資規模とリードタイムの観点で現実的ではなく、発想の転換が必要になる。答えは「電力を需要地へ運ぶ」のではなく「需要を電力のある場所へ移す」ことである。

 他方「需要側をコントロールして電力の過不足を吸収する」というデマンドレスポンスの発想は、スマートシティに関する議論の黎明期から繰り返し提唱されてきた。しかし、家庭や工場を対象にした従来の試みは、インセンティブがあったとしても需要家の行動変容が限定的で、系統の需給最適化には至らなかった。

 この課題に突破口を開けるための鍵を握るのがデータセンターである。データセンターの電力需要は、一般の需要家と根本的に異なる2つの特性を持つ。

特性1 :ワークロードの性質による分離が可能。AI学習やバッチ処理はリアルタイム性が不要で、再生可能エネルギー余剰の時間帯にシフトできる。一方、推論処理やリアルタイム取引は即応性が不可欠でシフトできない
特性2 :契約による事前制御が設計できる。データセンターは大口需要家として電力事業者と相対契約を結ぶため「この時間帯は上限何メガワットまで」といった平準化と予約化を契約レベルで組み込める。家庭や中小工場では不可能だった精度でのコントロールがデータセンターでは実現しうる

 この特性を活かした仕組みが米国では既に実践されつつある。カリフォルニア州の電力会社PG&Eが導入する契約形態「Flex Connect」だ。系統混雑時にはデータセンターへの供給を抑制する代わりに、データセンターを早期に系統接続する。「最悪なケースを想定した固定容量確保」という従来モデルから「実際の系統余力に応じたリアルタイム割り当て」への転換例の1つである。

 費用分担でも転換点が訪れている。2026年初頭、米トランプ政権はAmazon.com、Google、Meta、Microsoftなどの主要ハイパースケーラー(AIインフラの独占的支配者)に、電力コストと関連インフラ費用を全額自社負担する「Ratepayer Protection Pledge」に署名させた。データセンターの電力コストを一般家庭の電気料金に転嫁しないことを義務づけたこの枠組みは、電力投資の責任主体を明確化した点で画期的である。日本でも同様の制度設計の議論が避けられなくなるだろう。

 こうして電力層の役割は「どの地域で、どんな電源と送電容量を持つか」という静的な設備設計と、「いつ・どれだけならAI計算向けに受け入れられるか」という動的な運転条件の両方を、計算層とネットワーク層へのインテント(目的・条件)として提示することに変わる。すなわち“発電して送る”インフラから、計算層・ネットワーク層と連携しながら“需給を動的に差配する”インフラへの転換である。