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AIが書き替える労働市場の需給ギャップとリスキリングの中身【第42回】

平本 信敬(監修:藤井 篤之、アクセンチュア)
2026年6月11日

高齢化に伴い労働市場のミスマッチが拡大

 日本では、労働力不足の克服が課題である。企業や社会のAI技術の利用は待ったなしだ。特に地方では、高齢化に伴い、需要に先立って供給が縮むことが問題視される。リタイア後も衣食住は不可欠なだけに、地域経済の持続性の観点からも重要なテーマである。

 労働政策研究・研修機構(JILPT)の推計によれば、経済成長がなく労働参加も進まない悲観シナリオのもとでは、日本の就業者数は2022年の6724万人が2040年には5768万人へと約1000万人減少する。少子化で供給が細る一方、高齢化で介護需要が膨張する。

 経済産業省によると、地方では介護・建設・物流の現場を中心に担い手不足が加速する一方、都市では事務職が2040年に約437万人余剰となる見込みだ(図1)。足りない場所と余る場所が交わらないまま固定化していく、このミスマッチは、技術変化が積み重ねてきた構造的な帰結でもある。

図1:地域別の就業ミスマッチ(出所:『2040年の就業構造推計(改訂版)』、経済産業省、2026年3月)

 MITの労働経済学者であるデイヴィッド・オーター教授らは、1990年代から2000年代にかけてITにより定型業務の自動化が進む中で中間層が空洞化し、知識職と対人サービス職に分極化する「雇用の二極化(job polarization)」を実証した。2020年代の生成AI技術の発展は、この構造に新たな変化を加えようとしている。

 近年のAI技術は情報処理を超え、知識職の意思決定にまで踏み込み始めている。医師の診断や、弁護士の判断、エンジニアの設計といった高度な判断業務の一部をAI技術が代替しつつある。

 アセモグル教授とオーター教授はMITの同僚だが、AI技術に対する見方は対照的である。アセモグル教授が「代替に偏りすぎ」と批判的なのに対し、オーター教授は「生成AI技術は知識・判断業務を多くの労働者が担えるようにし、AI技術によって壊れた二極化の構図を修復する可能性がある」との見方を示す。

代替が難しい肉体的労働のボーナス期も早晩収束

 英エコノミスト誌は、同じ問いに異なる角度から光を当てている。AI技術がホワイトカラーの知識業務を侵食する一方、身体的な現場作業は代替しにくいとして2023年、肉体労働者にもたらされる恩恵を「ブルーカラー・ボーナンザ(ブルーカラーの大繁栄)」と称した。

 知識職の受難は数字にも現れる。米国の27歳以下の大卒者失業率は2025年4月時点で5.8%であり、コロナ禍を除けば2013年10月以来の高水準にある。専攻別では、コンピュータエンジニアリングが7.8%(全体2位)、コンピューターサイエンスが7.0%(同4位)、建築の6.8%(同6位)など、生成AI技術の影響度が高いと考えられる領域を中心に就職難に直面する。

 世界最大の資産運用会社である米ブラックロックのラリー・フィンクCEOは2026年3月に「2026年の大卒者が就職するころには、景気後退がないにもかかわらず数年ぶりの最高失業率を見るかもしれない」と発言している。

 ただし、ブルーカラーもAI技術の波の前に影響がないとはいえない。世界最大規模の技術展示会「CES 2026」に際し米NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは「ロボット版ChatGPTモーメントは、もうすぐそこだ」と宣言。「フィジカルAI」と呼ぶ、物理的な現場で自律的に動くロボット群の実装がカウントダウンに入っている。つまり、AI技術が知識層に影響を及ぼすことで起きたブルーカラーのボーナスタイムは早晩収束し、その波は遅れてブルーカラーにも届く(図2)。

図2:技術が階層に与える影響。Autor & Dorn (2013)、 Autor (2024)、 The Economist (2023) を参考にアクセンチュアが作成

 もっとも、フィジカルAIが現場に入るには、センサー網や高速通信、建物のIoT(Internet of Things:モノのインターネット)化など物理インフラの整備が前提になる。どこに何を配置するかの設計が、地域の雇用が転換を迫られるタイミングを左右する。スマートシティにおけるインフラの整備計画は、人材のリスキリング・移行計画と一体で設計される必要がある。