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目指すべき「次の公共インフラ」が求める標準化【第45回】

増田 暁仁、矢島 史也(監修:藤井 篤之、アクセンチュア)
2026年7月30日

 COMmmmONSが推進する標準化は、このサイロ化を打破し「事業者・産業・自治体の壁を超えた連携・協働」をデジタル技術の観点から推進するための社会共通の技術基盤づくりだ。プロジェクトの核心は、連携・協働を阻む障害を(1)サービス、(2)データ、(3)マネジメント、(4)ビジネスプロセスの4つの観点から整理し、それらを一体的に再編成し標準化することにある(図1)。

図1:地域交通DX推進プロジェクト「COMmmmONS(コモンズ)」が目指す標準化の4つの観点(出所:国土交通省公式X @MLIT_JAPAN)

(1)サービスの標準化 :経路検索、予約、決済・チケッティングの一連の顧客接点で、事業者や自治体がシームレスに連携するための標準API(Application Programming Interface)を開発し、サービスの相互運用性を確保する

(2)データの標準化 :バス運行情報の共通フォーマット「GTFS」だけでなく、交通サービスの需要と供給の双方から取得されるデータを標準的に扱う仕様を確立し、地域全体の正確な需要把握を可能にする

(3)マネジメントの標準化 :データを活用した汎用的な政策立案手法、評価指標、交通シミュレーションなどの分析技術や施策ノウハウを確立し、他地域へ容易に転用可能にする

(4)ビジネスプロセスの標準化 :事業者間連携を円滑にし、システムリプレイスの低コスト化を実現するための標準的な業務モデルやシステム構成を開発する

“接続ルール”をデジタルの公共財として整備する

 例えば、ヘルスケアMaaSのように、病院受付から診察終了、帰路のデマンドバス予約までが一連の業務として接続できれば、交通は単なる移動サービスではなく、医療アクセスを支える業務基盤になる(図2)。ここで標準化されるべきは、乗車券や決済だけではない。予約情報、運行情報、利用者の状態変化、事業者間の業務連携プロセスまで含めた、異分野接続のための共通言語である。

図2:病院の受付から帰路のデマンドバスの予約を自動化するヘルスケアMaaSのイメージ(出所:「COMmmmONS」のWebサイト「PROJECT REPORT」、国土交通省)

 COMmmmONSの本質は、地域交通を便利にするアプリを作ることではない。医療・物流・行政・エネルギーと交通をつなぐための“接続ルール”をデジタルの公共財として整備することにある。具体的には、システムやデータ、さらには業務や契約形態までを相互につなぐための『標準ドキュメント(システム連携仕様、データ仕様、オープンソーススクリプトなど)』というアセットを社会共通の基盤として提供する。

 こうした標準ドキュメントの整備は、個別事業者ごとの開発・導入負担の低減につながる可能性があり、結果として新たなプレーヤーの参入障壁を下げられる(図3)。

図3:「COMmmmONS」が提供する標準ドキュメント『COMmmmONS Documents』の例(出所:『COMmmmONS Documents』、国土交通省)

 こうした標準化は、近年進められている地域公共交通関連の制度見直しの方向性とも連動している。法律が促す「共同化・協業化」や「地域の輸送資源のフル活用」に対し、COMmmmONSがデジタルの側面から具体的な“武器”となる標準アセットを提供するという構造だ。

 全ての地域を「従来通りには残せない」という誰もが正面から語りにくい現実から目を背けず、限られた資源をフル活用して地域住民の命と生活を守り抜くためには、事業者や行政の垣根を超えたその資源の共有が不可欠だ。そのための客観的な共通言語、そしてサイロ化を解体するための最大の武器こそが、COMmmmONSの標準化である。

未来は最先端技術の派手な誇示では訪れない

 日本のスマートシティの未来は、最先端テクノロジーの派手な誇示にあるのではない。路線バスが消えていく地域の現実を直視しながら、システムや業務の標準化という静かなブレイクスルーを足元に敷き詰め、分断された交通資源を持続可能な基盤として再構成していく。それは地味で、時間のかかる作業だ。

 しかし、華やかな実証実験を繰り返しながら何も変わらない現状と比べれば、より誠実で、より強靭な道筋になり得る。こうした標準化の積み重ねは、持続可能な地域交通を実現するうえで重要な基盤になる。その先に、地域での暮らしを支える新たな可能性が見えてくる。

増田 暁仁(ますだ・あきひと)

アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 ストラテジーグループ プリンシパル・ディレクター。立命館大学文学部人文学科地理学専攻卒業後、2014年アクセンチュア入社。先進技術を中心とした新規事業戦略や産業全体のR&Dの実行・実装支援、スマートシティ戦略策定、都市・交通等の国土交通領域にデジタル等を活用する政策・施策立案支援等、実績多数。近年は官庁やインフラ企業等の大規模変革案件に従事。

矢島 史也(やじま・ふみや)

アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジャー。東京工業大学(現:東京科学大学)大学院総合理工学研究科メカノマイクロ工学専攻修了後、大手電機メーカーを経て、2020年アクセンチュア入社。先進技術を中心とした新規事業戦略立案実績多数。近年は官庁等の大規模変革案件に従事。

監修:藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。現在は戦略グループにおけるAI関連ビジネスのリードを務める。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。