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EBPM ×AIで行政にデータを活かし政策サイクルを変える【第48回】

松田 脩平(監修:藤井 篤之、アクセンチュア)
2026年9月10日

スマートシティを地域に根づかせるには、その土台となる政策と、地域での実行を担うDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自立組織)の連携が必要になる。今回は、政策について「EBPM(Evidence-Based Policy Making:エビデンスに基づく政策立案)」を切り口に、日本の現状と、そこにAI(人工知能)技術を組み合わせることで、どんな道筋が開けるのかを論じる。

 「実証実験では成功したが、翌年の予算がつかずに終了した」--。こうしたケースは、スマートシティの現場でも、しばしば起きている。補助金が切れればサービスも終わるという「PoC(Proof of Concept:概念実証)の罠」である。技術やサービスの効果を客観的に示し、次の予算編成や横展開につなげられなければ、取り組みは一過性で終わりやすい。

 スマートシティを地域に根づかせるうえでも「何が本当に効いたのか」をデータで確かめて次に活かす「EBPM(Evidence-Based Policy Making:エビデンスに基づく政策立案)」が重要な役割を果たす。だが、EBPMは日本の行政では十分に機能していない。「なぜEBPMが機能していないのか」の構造を読み解くことは、スマートシティを前に進めるうえでも意味を持つだろう。

EBPMの実践を3つの壁が阻んでいる

 2017年の政府の『骨太の方針』にEBPMが明記されて以来、各府省が推進体制や手法を整えてきたが、実態は「評価のための評価」になりがちだ。政策評価の報告書は作られても翌年度の予算編成につながらず、知見は組織の棚に眠っている。

 EBPMのルーツは医療にある。経験や勘ではなく臨床試験のエビデンスで治療を選ぶ「エビデンスに基づく医療」の考え方を政策に持ち込んだのがEBPMだ。効果が不明なまま予算を投じるのをやめ、データで「何が効くのか」を確かめる。狙いは明快だが、実践は難しい。

 難しさは2層に分けられる。1つは因果推論や統計処理そのものの学問的な難しさである。都合のよい結果だけを拾う「p値ハッキング」はその典型だ。もう1つは、その手前にある組織と制度の難しさである。本稿では後者に焦点を当てる。その視点からみれば、EBPMの前には3つの壁が立ちはだかる。

第1の壁:データの縦割り

 省庁や自治体ごとに分断されたデータベースが、横断的な効果検証を阻む。医療・教育・福祉・経済など、分野を統合して初めて見える“政策の本当の効果”が組織の壁に隠れる。しかも根は深い。国民や事業者の情報の多くは、そもそも「共有しない」前提で集められてきた。後から1人ひとりに同意を取り直すのは非現実的で、既存データの横断利用は手詰まりに近い。

第2の壁:エビデンス生成の遅さとコスト

 委員会や文献レビュー、パブリックコメントの集約が必要で、1件の評価に1年以上かかることがある。「政策が効いたのか、もともと効果が出やすい対象が選ばれただけか」を切り分けるには高度な統計手法とデータ整備が要り、相応のお金と時間がかかる。毎年数千件の予算事業を人手で均一に対応することも難しい。検証が割に合いにくく、つい後回しになる。エビデンスは「作れない」のではなく「作るのに手間もお金もかかりすぎる」のだ。

第3の壁:評価文化の欠如

 評価の結果が次年度の予算編成や事業の見直しに十分に接続しにくいため、率直な評価に向けた組織的なインセンティブが働きにくい。結果として報告書は無難にまとまり、本質的な分析が埋もれやすくなる。これは個々人の意識や姿勢というより、評価が報われる仕組みをどう設計するかという制度の問題だ。