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目指すべき「次の公共インフラ」が求める標準化【第45回】

前回は、自動運転が地方交通の課題解決の万能薬ではなく、それ単体では採算化が難しい構造を抱えていることを確認した。そのうえで医療や物流、エネルギーなどと結び付け、地域の生活基盤を支える「クロスセクター」の発想が不可欠だと指摘した。今回は、その発想を成立させるために必要な「次の公共インフラ」の姿を考える。国土交通省が進める「COMmmmONS(コモンズ)」を手がかりに、地域交通DX(デジタルトランスフォーメーション)における標準化の意義を読み解く。
前回指摘したように、地方交通の課題を解決するためには、自動運転単体ではなく、医療や物流、エネルギーなどと結び付けた「クロスセクター」の発想が不可欠だと指摘した。ではクロスセクターによる“相乗り”を支えるための「次の公共インフラ」は、どう設計され、何を指すべきだろうか。
固定資産型インフラから接続可能な公共基盤へ
20世紀に整備された道路や、鉄道、水道、電力網といった公共インフラは、いずれも「据え付け型の固定資産」である。一度建設すれば物理的な場所に固定され、移動や給水、送電といった特定の目的のためだけに使われる。道路は車が走るためにあり、病院は医療を提供するためにある。それぞれのインフラが独立した目的のもとに構築され、縦割りで管理・運営されている。
この発想は、人口が増加し、経済が成長し、税収が右肩上がりで増え続けた時代には機能した。しかし今、その前提が全て崩れている。据え付け型のインフラを個別に維持し続けることは、もはや現実的ではない。
近年のグローバルなMaaS(Mobility as a Service:サービスとしての移動)を巡る潮流を振り返ると、そこには大きな構造転換が起きている。かつて移動の先進モデルだと注目されたフィンランドのベンチャー企業MaaS Globalのサービス「Whim」は、民間主導のB2C(企業対消費者)を対象にしたサブスクリプションモデルで交通の囲い込みを目指したが、同社の事例は、そうしたモデルにおける収益化の難しさを示唆していると受け止められている。
一方で欧州では、公的機関や都市OS(都市全体のデータ連携基盤)と結び付いた「開かれたデジタルインフラ」へと重心が移りつつある。
例えば独ベルリンの「Jelbi(イェルビ)」は、公共交通当局が主体になり、市内の公共交通から民間のシェアモビリティ(eスクーターやカーシェアなど)までを、データ連携や予約・決済の面で統合しようとしている。EU(European Union:欧州連合)レベルでも、マルチモーダルな移動データの共有やデジタルモビリティサービスの相互運用性を巡る制度整備が継続的に議論されている。
私たちが真に構築すべき「次の公共インフラ」の正体もここにある。異なる分野のサービスと機能をプラグインのように結合し、地域全体でリソースを時空間に応じて動的に融通し合えるネットワーク基盤である。それは、アスファルトで固められた道路や固定された鉄路といった「単体で存在する物理的なハードウェア」ではない。特定の自治体や大企業が予算を投じて囲い込み、その地域でしか使えないMaaSのための「個別最適なソフトウェア」でもない。
開かれた“公共財”としてのネットワーク基盤であるべき
次の公共インフラは、あるときは人を運び、あるときは荷物を運び、またあるときは都市のエネルギー需給を調整するバッテリーになる。バラバラだった地域の資産が、共通基盤を通じてリアルタイムに結合され、24時間絶え間なく自律駆動する。特定の目的に縛られず、地域の状況と需要に応じて、その役割を動的に変え続けることで「分野を横断してリソースを最適配分し続けるネットワーク」こそが次の公共インフラの定義である。
例えば、病院の受付・診療予約情報とデマンド交通の予約情報を連携させれば、診察終了後の帰宅便を利用者の状態に応じて組み替えられる。買い物支援や小口配送の需要も同じ運行枠に重ねれば、車両は医療、生活支援、物流を束ねる可動型の公共インフラになる。こうしたクロスセクター効果は、こうした異分野の業務とデータが同じ基盤の上で接続されて初めて現実の運用が可能になる。
ここで重要なのは、このネットワーク基盤が「特定の主体が所有・管理する資産」ではなく「誰もが接続・活用できる開かれた共有財」として設計されることである。特定の自治体や企業が囲い込んだ瞬間に、他のプレーヤーが参入できなくなり、地域の輸送資源のフル活用は不可能になる。民間の創意工夫と公共の責任が交差する開かれた場として機能して初めて、持続的かつ動的に進化し続けられるのだ。
翻って現状を見れば、この開かれた共通基盤が日本にはいまだ存在していない。代わりに、地域ごと、事業者ごとに個別最適なシステムが乱立している。結果、ある地域で蓄積されたノウハウや技術は他の地域に展開されず、同じ課題に対して各地が独自に予算を投じて車輪の再発明が繰り返されている。
モビリティ領域における過度な分化、すなわち“サイロ化”の構造こそが、限られた公共予算をさらに非効率に消耗させ、民間投資の意欲を削いでいる最大の要因だ。この構造を解体するところから、持続的かつ動的に進化し続けるインフラの実現は始まる。
国交省「COMmmmONS」は標準化領域を4つに整理
次の公共インフラを立ち上げるために不可欠なのが標準化である。そのために国土交通省が主導する地域交通DX推進プロジェクト「COMmmmONS(コモンズ)」が動き出している。
多くのスマートシティやモビリティのプロジェクトが挫折していく最大の要因は、上述した地域交通のサイロ化にある。国内では、MaaSや配車といったモビリティサービスの高度化は、ある程度進んできた。しかし、それらは鉄道、バス、タクシーなどの別に、あるいは事業者グループごとに独自に発展を遂げている。
結果、A社とB社のシステムは連携できず、せっかくの地域の輸送資源が分断され、利用者の移動体験はかえって複雑化し、利便性の低下を招いている。人口減少期において、個別最適にこだわった「車輪の再発明」の繰り返しは、地域交通の持続可能性を内側から食いつぶす巨大な障壁になっている。