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「地域エンタメ3.0」は価値を創出し続けられるモデルを目指す【第47回】

上端 純平、尹 昊(監修:藤井 篤之、アクセンチュア)
2026年8月27日

参加者を地域の価値を生み出す担い手に変える

 地域エンタメ3.0の世界を、架空の1ユーザーの体験として描いてみよう。

 Aさんは28歳、東京在住のWebデザイナーで、映像編集が趣味だ。地方都市Xの出身で、進学を機に上京してから8年間、ほとんど帰省できていない。地元の友人とは年賀状すら途絶えており「故郷が今、どう変わっているか分からない」という距離感が続いていた。

 ある日、好きなインディーゲームのSNSで「地方都市X 城下町版ワールド」という投稿が流れてきた。「あなたのプロフィールに近い参加者が多い」と紹介されていた。興味本位でログインすると、そこには地元の祭りと同時進行のバーチャル夏祭りが広がっていた。遠くからの参加者が現地と同じ時間にバーチャル空間を歩き回る。そこには聞き慣れた縁日の音が流れていた。懐かしさと同時に「自分も何かしたい」という感覚が重なる。

 Aさんは、かつての記憶を掘り出し、昔に撮影した祭りの映像を短く編集し城下町版ワールド内のコミュニティに投稿した。すると、その映像を見た地元の若手ミュージシャンのBさんが自発的に楽曲を付け、コラボ作品が生まれた。予期しなかった出会いが、誰も複製できない「地方都市Xの一シーン」として記録された。

 コラボするに当たってAさんはワールド上で「あなたの映像に反応した地元クリエイターがいます」とのメッセージを受け取っていた。そこから連絡を取ってみたところ、2人は意気投合し何を作るかを2人で決めた。

 コラボ作品への愛着と「コラボした相手に実際に会いたい」という気持ちからAさんは8年ぶりに帰省し、地元の夏祭りに参加した。現地で初めて顔を合わせた2人は、翌年のバーチャル空間で一緒に取り組む内容を現地で相談し決めた。

 Aさんが現地で撮影した映像は翌年の城下町版ワールドに還元され、それを見たファンが動画を引用するたびに2人には小さな対価が分配された。Aさんは、いつの間にか“参加者”から“地方都市Xの価値を生み出す担い手”になっていたのだ。

デジタル/AI技術が価値創出の循環を加速する

 AさんとBさんのような出会いは偶然起きるかもしれない。しかし、それは稀だろう。地域エンタメ3.0にあっては、そうした出会いを生み出す仕掛けが不可欠になる。上記の地域版ワールドの例で言えば、「あなたのプロフィールに近い参加者が多い」やあなたの映像に反応した地元クリエイターがいます」といったメッセージが、その一部だ。出会いを設計し、創作の痕跡を残すことで、Aさんの独自性が創造され、それがBさんとの次の循環を生み出す起点になる。

 この循環を持続させるには、参加のハードルを下げ、創作の摩擦を軽減し、貢献に見合う対価を分配する仕組みが必要だ。そこに独自性の源泉としてではなく、仕組み全体の“加速役”として機能するのがデジタルとAI(人工知能)システムである。

 地域エンタメ3.0におけるAIシステムは、独自性の源泉としてではなく、仕組み全体を後押しするものとしてこの循環を加速する役割を担う。具体的には次の4つの役割がある。

役割1:街をキャンバスとして開く

 どんな共創も「舞台が開かれていること」が前提だ。全国の街並みをデジタル空間の創作舞台として扱うにあたっては、国土交通省が日本全国の3D(3次元)都市モデルを整備・オープンデータ化を図る「プロジェクトPLATEAU(プラトー)」を推進している。つまり、既存の都市そのものを創作の場として開くための公共基盤は既に稼働していると言える。上述した独自性を生成するためのサイクルにおける「プロセス1:テーマ設定とコミュニティ組成」に特に寄与する。

役割2:創作の民主化——誰でも創り手になれる

 コーディング不要でバーチャル都市空間を制作・公開でき、収益の一部をクリエイターに還元する仕組みも整ってきている。ゲームやバーチャル空間をユーザー自身が制作・公開できるオンラインプラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」が、その一例だ。

 生成AI技術の普及により、映像・音楽・Webサイト・グラフィックの制作も専門技術がなくても着手できるようになった。「アイデアを持つ人が最初の一歩を踏み出せる環境」が整い、参加のハードルは構造的に下がっている。上述のサイクルにおける「プロセス2:多様なリソースの流入」に特に寄与する。

役割3:出会いを設計する——コミュニティマッチング

 例えばフランス発の「Timeleft」は、アルゴリズムが見知らぬ5人をマッチングし毎週水曜夜のディナーを設計するサービスを2026年7月時点で48カ国・160以上の都市に展開している。恋愛マッチングで磨かれた「価値観スコアリング → グループ編成 → 場の設計 → フィードバック学習」のサイクルは、地域エンタメの共創参加者同士のマッチング構造にそのまま転用できる。

 「誰と組めばよいか分からない」「誰に価値を届けたらよいか分からない」といった摩擦は、今やテクノロジーで解消可能な問題になりつつある。上述したサイクルにおける「プロセス1:テーマ設定とコミュニティ組成」と「プロセス3:地域素地の育成と価値創造」に特に寄与する。

役割4:権利処理と対価還元を一体で担う

 小中規模のクリエイターにとって権利関係の記録と対価還元は長年の課題である。かつては大手レーベルや専門家に頼らざるを得なかった権利関係の記録・管理プロセスのハードルが、段階的に下がりつつある。

 例えば日本音楽著作権協会 (JASRAC)が2022年に正式リリースした「KENDRIX(ケンドリクス)」は、ブロックチェーン技術を活用して楽曲の存在を証明する無料サービスだ。音源ファイルのハッシュ値とタイムスタンプを記録し「いつ、誰が創作したか」を示す客観的な材料を提供する。2025年8月には、JASRACが管理する楽曲の著作者を対象に、コラボ楽曲における創作の寄与度に応じた分配率を届け出る機能も追加された。

 このような仕組みが発展して、地域で創ったコンテンツが使われるたびに作り手に対価が戻る構造を支える基盤になれば、上述したサイクルにおける「プロセス4:インセンティブ還元と次の参加へ」に特に寄与する。