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新たな地域ガバナンスに向けDAOは行政を変えられるのか【第49回】
地域の持続性を高めるには参加者が増えるだけでは足りない
これまで地域活動の一部は、補助金に支えられてきた。地域団体が行政に申請し、審査を経て採択され、活動し、報告する。この仕組みは、公共性や公平性を守るうえで重要だった。
一方で、地域活動が行政の制度に合わせすぎてしまう側面があり、補助期間が終わると活動の継続が難しくなることもある。住民は自分たちで地域を動かす“主体”というよりも、行政サービスの“受け手”になりやすい。
行政に全てをお願いするのでもない。市場に全てを任せるのでもない。地域の人たちが、自分たちで課題を見つけ、優先順位を考え、資金の使い方を決めていく。補助金に依存する地域から、自分たちで動ける地域へ。DAOには、そうした自律性を生み出す可能性がある。
ただし、DAOが地方で十分に機能しているかといえば、まだそうとは言い切れない。DAOは地域の外にいる人を巻き込むことには向いている。都市に住む出身者、移住を考えている人、地域に関心を持つ企業や個人。こうした人たちを1つのテーマでつなぎ、地域づくりに関わるきっかけを作ることができる。
例えば、新潟県長岡市の山古志地域で始まった「山古志DAO」では、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)をきっかけに地域外の人々を「デジタル村民」として巻き込み、地域への関心や参加を広げようとしている。デジタル村民の数が実際の住民数を上回ったことは、DAOが地域の外側にいる人を惹きつける力を持つことを示している。しかし、それはあくまで入り口だ。
地域に関わる人が増えることと地域が持続的に動くことは同じではない。地域社会には、外からは見えにくいが必要な調整が多い。自治体や自治会、地元企業、商店街、学校、福祉団体、金融機関、住民同士の関係など。そこでは、良い提案であること以上に、その地域で受け入れられるか、続けられるか、責任を持って進められるかが問われる。
確かにDAOは、関心やアイデアを集め、意思決定への参加を広げることはできる。しかし、その意思決定を地域の中で継続的な行動に変えるには、もう一段階の仕組みが必要になる。
この限界は一般的なDAOの課題とも重なる。参加者が多く見えても、実際に投票や議論に関わる人は限られがちだ。トークンの保有量によって影響力が強まる設計では、一部の大口保有者に意思決定が偏ることもある。さらに、スマートコントラクトの脆弱性や、法制度との接続の難しさも残る。DAOは考え方としては魅力的だが、地域で機能させるにはDAOだけでは足りない。
地方銀行や信用金庫が地域の意思を実際に使える力へ変換
そこで重要になるのが、地方銀行や信用金庫である。地方銀行や信用金庫は、地域の企業、自治体、住民、商店などと日常的に接点を持っている。口座や決済、融資、本人確認、信用、加盟店ネットワークといった実務の基盤もある。これはDAOだけでは簡単に持てない資産である。
DAOが「地域に関わりたい人」を集め、地域の意思決定を開く仕組みだとすれば、地域金融機関は、その意思決定を地域の中で実際に使える力へ変換する役割を担える。特に重要なのは、人々を動かすためのインセンティブを設計し、配分する機能である。
地域にとって望ましい活動があっても、それだけで人が動くとは限らない。防災訓練や健康づくり、子育て支援、空き家活用、商店街イベントなど、どれもが地域に必要な活動だ。だが、参加する側には時間的にも心理的にも負担がかかる。善意だけに頼る仕組みは長く続きにくい。
ここで参考になるのが、参加や貢献を可視化する仕組みである。農業や地域活動への参加をポイントやステータスとして記録し、貢献度に応じて特典や評価につなげる取り組みなどだ。
例えば、福島県西会津町が進める「石高プロジェクト」では、米の購入に紐づく「米ボード」と、現地でのボランティアやイベントへの参加、SNSでの宣伝活動などを評価する「人足ボード」が設けられている。重要なのは、単に商品を買ってもらうだけではなく、地域や生産者に関わる行動そのものを可視化し、継続的な参加につなげようとしている点である。
この考え方は、DID(Decentralized Identifier:分散型ID)やVC(Verifiable Credentials:検証可能なデジタル証明)との相性もよい。防災訓練や子育て支援、商店街イベント、空き家活用などに関わったことをデジタル上で証明できれば、地域通貨や地域ポイント、優遇サービス、融資条件、補助的な資金配分と結びつけやすくなる。
つまり、DAOで「何をすべきか」を決め、DID/VCで「誰がどのように貢献したか」を可視化し、地域金融が「どの貢献にどのようなインセンティブを配分するか」を設計する。この組み合わせによって、意思決定は単なる合意にとどまらず、実際の行動へつながりやすくなる。
そこでの地方銀行や信用金庫の役割は、従来の預金・決済・融資にとどまらず、人や企業が地域の課題に関わりやすくなる仕組みを支える方向に広がっていく。