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新たな地域ガバナンスに向けDAOは行政を変えられるのか【第49回】

前回は、行政がデータを政策に十分活かせるために「EBPM(Evidence-Based Policy Making:エビデンスに基づく政策立案)」にAI技術を適用し政策の評価・見直しを継続的に回す「適応型ガバナンス」の可能性を考えた。今回は、その先にある「誰が地域の意思決定を担うのか」という問いに対し、DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自立組織)を中心に、地域の知恵や関心を意思決定と実際の行動につなげる新たな地域ガバナンスのあり方を考える。
人口減少や高齢化、災害、財政難、地方創生など、地域が抱える課題は増えている。だが単に課題の数が増えているだけでなく、1つの課題が別の課題と深く結びつき、思わぬところに影響が広がっていくことで社会が複雑化している。
例えば、地方のバス路線を1本廃止することは、一見すると交通政策の話のようだ。しかし実際には、高齢者の通院機会が減り、医療費や介護費に影響する。外出する人が減れば、商店街の売上にも響く。地域の仕事が減れば、若者の流出にもつながる。人口が減れば税収も減り、行政サービスはさらに縮小せざるを得なくなる。交通の問題が、医療や福祉、商業、人口、財政の問題へとつながっていく。
こうした複雑化した社会では、行政だけが情報を集め、判断し、実行する仕組みには限界がある。なぜなら地域をよくするための情報や知恵は、すでに地域のあちこちに存在しているからだ。
住民は暮らしを実感として知っている。企業は産業や雇用の変化を肌で感じている。自治会や地域団体は地域運営の現場を知っている。地方銀行や信用金庫は地域のお金の流れや信用のあり方を知っている。必要なのは、行政の外側にある知恵や経験を、地域の意思決定にどう取り込むかである。
地域活動の運営をデジタル化し地域外の人も巻き込む
この問いに対する1つの考え方にDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自立組織)がある。共通の目的を持つ人たちが、あらかじめ共有したルールに基づき、提案し、話し合い、決定し、資金や役割を配分していく組織の仕組みだ。ブロックチェーンやトークンといった技術は、その運営を支える道具になる。
身近な例として、町内会の夏祭りを考えてみたい。住民が会費を出し、企画を持ち寄り、集会で予算や役割を決め、準備と運営を分担する。行政や企業から一方的に指示されるのではなく、参加者が共通のルールのもとで、自分たちの活動を共同で運営する。この構造は、DAOが目指すものとよく似ている。
こうした共同運営は、デジタル技術の利用以前から存在していた。ただし、それがうまく機能するのは、顔が見える範囲で、繰り返し会い、互いを知っている小さなコミュニティであることが多かった。
これに対しDAOでは、「みんなで決める」という発想はそのままに、参加資格の付与や、提案、投票、資金の管理、活動の記録をデジタル上で実行する。これにより、離れた場所にいる人の参加や、より大きな単位での共同運営を成立させやすくする(図1)。
「DAO」と聞くと、ブロックチェーン技術を基盤にする次世代インターネットの概念である「Web3」などに詳しい読者には“流行りもの”に聞こえるかもしれない。しかし、ここで考えたいのは技術そのものではない。大事なのは、かつて小さな共同体の中で成り立っていた「自分たちのことを自分たちで決める仕組み」を、距離や規模を越えてどう再現するかである。そして、その仕組みを使って、行政だけに閉じていた意思決定を、地域に関わる人たちにどう開いていくかだ。
もちろん、DAOが行政を置き換えるわけではない。市長や議会、自治体職員を不要になるものでもない。DAOが担えるのは行政そのものではなく、行政に寄りすぎていた合意形成や資源配分、参加の仕組みを補うことである。
