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日本社会のIT/DX変革における4つの“過ち”と起爆剤としての5つのポイント【第1回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年3月1日

過ち3:ITを中核的な戦略に位置付けてこなかった

 上述したように、日本はITを重要ポジションに位置付けてこなかった。政府が2000年に、IT政策の基本方針を定めた「IT基本法」を成立させてから20年が経つが、この間にオープン化やクラウド化が大きく進むチャンスがあったにもかかわらずだ。

 日本企業/政府の取り組みは、そのいずれもがバージョンアップやアップデートにとどまり、「ITは大きな社会的革新をもたらすもの」として認識されなかったのだ。

 政治家と話すと「ITは票にならないし、当選しても政策の中枢にはならない」とよく耳にした。国民に興味がなければ、興味を持たせる努力も無駄であるといった双方の諦めが、この問題を長引かせてきたのだろう。結果として国内IT業界は世界から大きな後れを取っている。一部のネット系IT企業だけが、まるで別世界であるかのように新しいデジタルサービスを立ち上げIT業界を2分しているのが現状だ。

過ち4:業界縦割りの構図でシステムを開発してきた

 IT業界はこれまで、B2C(企業対個人)サービスを進めてきたEコマース(電子商取引)ベンダーが代表するようなIT業界と、B2B(企業間)を中心にシステム開発してきた業務系のIT業界、そして省庁や自治体のシステムを構築してきた行政業務系のIT業界など、業界縦割りの構図でシステムを開発してきた。

 そのため担当業界の知識は十分に蓄積されてきたものの、業界横断型の「コネクテッドモデル」の経験が乏しいと言わざるを得ない。

 例えば、なぜ行政のITサービスは国民に受け入れられ難いのか。それは、行政がG2C(Government to Consumer:政府対市民)のサービス開発を外部に委託してきたからである。B2Cの視点や経験が乏しい政府自治体担当が外注し、IT業界の側も行政担当部門が対応する。

 産業界が提供する消費者向けサービスであれば、重要なKPI(重要業績評価指標)の1つに利用率が設定され、その利用率を高めるために、使い勝手をどうすべきかなどを必死に考える。

 ところが行政のシステム開発では、行政側もIT業界担当も不慣れな分野の開発を任されて、利用率を視野に入れずに現状のアナログの手続きをそのままIT化してしまってきた。IT業界側が、Eコマースを経験してきたメンバーを中核に加えていれば、そうならなかっただろう。

行政・社会DXを成功させるための5ポイント

 以上が、筆者が認識している日本における真のIT化を阻んできた“過ち”である。これらを踏まえて、日本における行政・社会DXを成功させるためには、次のポイントで変えることが重要だ。

ポイント1 :オープン・フラットという本質を認識したデザインにする。例えば、欧州の官民連携プロジェクトで開発・実証された基盤ソフトウェアに「FIWARE(ファイウェア)」がある。日本でも活用され始めているが、OSSであるFIWAREには、OSSとして本質的に取り組み、日本での成功例を欧州にフィードバックするなど、皆で発展させていかなければ、OSSを導入する意義がない。

ポイント2 :DXの推進担当(CDO:Chief Digital Officer=最高デジタル責任者やスマートシティアーキテクト)を行政や経営の中枢に位置づけ、権限を強化する

ポイント3 :行政・社会のDXは、すべてがつながる全体最適化が必要である。つまり、社会全体の中に行政システムがあり、企業システムもある。さらに、市民が受ける医療サービスや教育サービスも、そこにあるという前提で、「すべてがつながる」ための標準化や共通化に戦略的に取り組まなければならない

ポイント4 :社会全体のDXに取り組むためには政府が国家戦略として取り組む必要がある。この点は「デジタル庁(仮)」設立に期待する。

ポイント5 :市民・地域主導のスマートシティとデジタル庁が進めるDX戦略を密に連携させ、国民が必要とし便利な社会を実現するサービス開発に集中しなければならない。

 これらのポイントを踏まえ、地域の多くの成功事例が標準化され連携されれば、日本における行政・社会DXが実現することは間違いないだろう。今求められるのは関係者全員のマインドセットチェンジである。

 次回は「オープン・フラット・コネクテッド・コラボレーション・シェア」の思想で策定した、日本のあるべき全体アーキテクチャー像を解説する。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。

現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。