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スマートシティを成功に導く運営組織のあり方・作り方【第13回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2022年2月17日

政府の「デジタル田園都市国家構想」がいよいよ始まった。スーパーシティの候補地に全国で31の自治体が名乗りを上げるなか、政府が先行して2025年までに100地域のスマートシティを立ち上げる。前回は、構想実現会議で打ち出された論点を、筆者がこの10年間、福島県会津若松市で進めてきたスマートシティプロジェクトで培ったポイントと比べながら、まとめた。今回はスマートシティの成功に不可欠な運営組織のあり方や作り方を紹介したい。

 会津若松市のスマートシティプロジェクトでは、運営体制をより強固にするために「一般社団法人スーパーシティAiCTコンソーシアム(以下SAC)」が2021年に設立された。現在はSACを中核に、会津若松市や会津大学の官民連携体制の下、スマートシティプロジェクトのアップデートとスーパーシティプロジェクトの準備を進めている。

 スマートシティプロジェクトの推進において、その運営は行政主導モデルが正しいのか、民間主導モデルのほうが進めやすいのかは大きな課題の1つだ。会津若松市での10年間の歩みの中でも、それは振り子のように議論され迅速に適応・修正しながら、現在の官民連携体制にたどり着いている。これからスマートシティプロジェクトに取り組む地域の方々の参考に、筆者らの5つの経験と、その背景を解説したい。

経験と提言1:行政の全庁体制を構築し「各担当課が抜本的な改革を」

 スマートシティは地域のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する取り組みであり、その主人公は市民である。既存都市の地域DXを進めるブラウンフィールド型のスマートシティが行政主導になるのに対し、新規に開発するグリーンフィールド型のスマートシティは民間主導であることが多い。

 ただ忘れてはならないのは、グリーンフィールドもまた行政区内に存在しているのであり、行政の役割が重要だということだ。そしてスマートシティは行政でいうところの「長期総合計画」に組み込むべきものである。

 では、行政の中でスマートシティをどう位置付けて推進体制を構築すべきか。スマートシティは市民の生活のあらゆる分野に関わってくる。一方で行政には、環境や健康、防災、経済、教育など、スマートシティの関連分野のそれぞれに対応する課が数多く存在する。

 それだけにスマートシティの推進体制としては、市長もしくは副市長が本部長としたうえで、全庁内の取りまとめ役を企画政策部門や企画調整部門などに置くことが望ましい。さらに、企画部門内にスマートシティ担当リーダー(統括)と、サービスに関連する各課にもスマートシティ担当を配置し全庁体制にすることが望ましい。

 スマートシティへの取り組みが、行政の長期総合計画に組み込まれ、推進体制も同等であるべきとする意味がここにある。DXの考えの元、長期総合計画をどう遂行するかをミッションに加えることが重要だ。決して新たな新設部門である必要はない。

 もちろん、現在の業務をどうデジタル変革するかが重要なので、既存の長期総合計画をそのままデジタル化してはならない。任命されたスマートシティ担当が集まって既存計画の見直しと、実現方法の抜本的改革をすることが重要になる。

 企画部門のスマートシティ統括は、行政全般の政策に精通し、かつ情報技術を理解している方が適任者である。だが最も重要なのは、地域の課題を直視でき、改革する意志の強さだ。もちろん各担当課をイノベーティブに誘導できる能力も求められる。