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行政のデジタル化実現の土台となるオプトインの社会【第9回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年10月21日

デジタル庁が発足し、これから全自治体の行政システムの標準化が進められる。アーキテクチャー(構想)全体を見直す前提で進めると言われているが、どのような社会が実現されていくのだろうか。この10年、筆者は福島の会津若松市のスマートシティへの取り組みにおいて、市民がサービス利用時に自らの意思でデータ共有を承認する「オプトイン」社会を目指してきた。今回は、オプトイン社会の考え方をベースとしたデジタル行政のあるべきモデルを示したい。

 インターネットは全世界をつなぎ、光と影が存在するものの、社会はオープンになった。市民生活の様々な場面でデジタルサービスが取り入れられ、いまや当たり前の存在になっている。

 同様に、IT分野において長年研究され開発・実現されてきたアーキテクチャーや技術が今、実社会に適用され始めている。例えば、「サービス指向アーキテクチャー(SOA:Service Oriented Architecture)」が、それだ。SOAは、システム全体を利用者視点から見たサービスだと位置付け、その実現に必要な機能単位に開発したソフトウェア部品を組み合わせることでシステムを構築する考え方である。

 SOAは2000年代以降進化を繰り返し、昨今のマイクロサービスアーキテクチャーなどにも影響を与えながら、少しずつ具現化されてきている。日本政府によるスーパーシティ法案に関する議論において、国会でAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)が取り上げられるようになったことには驚かされた。AI(人工知能)も、ようやく現実社会に適用されてきている。

15年前には存在した「マイ・コンシェルジュ」のアイデア

 SOAが掲げる「利用者視点から見たサービス(現代であればデジタルシステム)」とは一体どのようなものだろうか。筆者は前職で、米国の旧サン・マイクロシステムズ(現米Oracle)に勤務し、SOAを駆使したサービスとなる「マイ・コンシェルジュサービス」の開発を複数のネットサービス企業に持ち掛けていた。ただ残念ながら、マイ・コンシェルジュはまだ、どの企業でも実現されていない。

 マイ・コンシェルジュがどのようなサービスかを示すために1例を挙げる。例えば、寒い1月のある日、個人情報管理ツール「Outlook」に「明日12時に赤坂でランチミーティング」と入力すれば、出張申請から電車の予約、出発時間のアラートなど、ランチミーティングに参加するのに必要な一切の手配を完結してくれる。具体的には次のような項目を理解し処理する。

(1)筆者は福島・会津若松市に住んでいる。東京・赤坂に12時に到着するためには「東京駅に30分前の11時30分には到着している必要がある」と理解する
(2)そのためには「郡山駅10時発の新幹線に乗らなければならない」と認識する。
(3)その新幹線をSOA連携で予約する
(4)会津の自宅から郡山駅まで筆者は自家用車で移動する。カーナビに記録されている運転情報から、移動には約1時間かかることが分かるため「少し余裕をみて自宅を8時30分に出ると良い」と認識する。
(5)朝食の時間を考えて「起床時間は7時」と筆者のスマホ「iPhone」にセットする
(6)朝、車は冷え切っているので、自宅を出る15分前に遠隔からエンジンをスタートさせる
(7)夜に天候が悪化し雪が強く降ってきた。天気予報の情報から郡山までの移動には30分長くかかると想定される。iPhoneの目覚ましを6時30分に変更する
(8)レストランには食物アレルギー情報(筆者はアレルギーがないため実際には不要だが)などを、やはりSOA連携で連絡済みである

 このように日々の行動履歴や購買履歴をデータ化しておけば、すべての手続きを「マイ・コンシェルジュ」が代行してくれる。上記は15年前のアイデアだが、昨今のAI技術の進展や各種履歴データの蓄積が容易になっていることを考えれば、当時よりも現実味を帯びてきているのではないだろうか。