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デジタル田園都市国家構想とスマートシティ【第12回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2022年1月20日

論点1-1:地方での仕事の確保

 コロナ禍でテレワークが広がり、出社する必要がない職種も見えてくるなど、企業は就業モデルを大きく変革させようとしている。安倍政権で進められた働き方改革も、テレワークを前提とした次のステージに進むことになるだろう。

 ここで1点だけ注意しなければならないのは「テレワーク=在宅勤務」との理解が主流になっていることだ。テレワークの本質は、遠隔地でもネットワークによって生産性を維持したままで業務を遂行するための環境整備である。その1つの方法に自宅での勤務モデルも含まれるというだけだ。

 デジタル田園都市国家構想の本質からすれば、分散社会を可能にする環境整備が重要であり、各地に機能分散拠点であるサテライトオフィスを整備する必要がある。各地に知の集積環境であるハブを整備したうえで在宅でのテレワークも可能にする。会津のスマートシティAiCTは、ハブという重要な役割を担っているサテライトオフィスを具現化した施設である。

論点1-2:成長産業の創出

 地方で成長産業を創出することは簡単なことではない。だが会津には、IT単科大学である会津大学があり、すでに40社ほどのITベンチャー企業が誕生している。それらの企業のさらなる成長につながる環境づくりがカギとなる中で、首都圏などから機能移転した企業とのコラボレーション環境の整備が進んでいる。まさに地域を実証フィールドとしたスマートシティプロジェクトだ。

 スマートシティAiCTには、スマートシティを実現するための各種領域をカバーするDX推進企業が入居している。そこには地元のベンチャー企業も同居しているため、世界レベルのコラボレーションが起きやすい環境になっている。

 ただし最も大切だと考えているのは、これまで地元を支えてきた基幹産業(製造業や観光業、農業など)の生産性を高め成長産業への転換を促すことである。そのためには、スマートシティAiCTの入居企業と地元企業のコラボレーションが重要である。

 第1弾として、中小企業製造業の生産性30%向上プロジェクトを実施してきた。同プロジェクトのパイロット企業の代表は、岸田首相との車座にも参加し、「30%成長の成果が見えてきたため2022年度は3%の賃上げを実施する」と力強い発言をしていた。

 岸田首相も賃上げ税制優遇策を実施予定であることから、現場での生産性向上を実現するための政策実行があって賃上げが可能になることを実感していただけたことと思う。

論点2-1:デジタル人材確保&共助コミュニティ醸成

 デジタル人材の育成において、会津大学とのコラボレーションは10年がたった。2021年度は、スマートシティAiCTの入居企業が講師として地域の小中高へ出向き、延べ2000人近い児童生徒に対し、DX・SDGs(持続可能な開発目標)・キャリアなどをテーマにした授業をサポートしている。

 そこでは、自分たちの町でスマートシティプロジェクトが推進され、市民がオプトイン(同意に基づいたデータの収集・活用)したディープデータがあるという環境が、実データを活用した人材育成や地域参加型の教育およびデジタルハッカソンにとって、いかに望ましいものであるかを目の当たりにできた。

 自らが学んだ知識が、実社会や地元地域でどう活かされるのかを、学生時代から体験できる環境を、ここ会津では整備できたと思う。産官学一体となった教育環境といって良いだろう。

 オプトイン型のスマートシティは、市民自身が地域のために自身のデータを共有するモデルだ。それは“共助型”のコミュニティを自然と醸成していく。ここでも産官学のオープンでフラットな連携が要になり、いずれ北欧のように、市民と行政が一体となって地域のために活動する本格的な共助コミュニティへ進化していくものと感じている。

論点2-2:先端的人材の好循環の確立

 「地域で育成した人材の多くが東京へ流出してしまう」という課題が全国各地で問題視されている。2014年には「消滅可能性都市」が示され、地方創生政策を進めるきっかけとなった。

 前述したように会津では移転してきた企業人による人材育成を実施している。スマートシティAiCTの入居企業はインターンも受け入れている。東京へ行かずとも先端プロジェクトに参加できる社会環境が整備されている。

 また会津大学は、この10年で世界大学ランキングを上昇させ、全国から優秀な学生が集まるようになってきた。企業は優秀な人材を求めるだけに、好循環が生まれたといって良いだろう。