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デジタル田園都市国家構想とスマートシティ【第12回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2022年1月20日

論点3:データ連携基盤等のデジタル基盤整備

 スマートシティ会津若松では、データ連携基盤である都市OSとして「会津若松+(プラス)」を2015年から稼働させている。市民がオプトインすることでパーソナライズされたサービスを受けられると同時に、オプトインされたデータがディープデータとして地域のために活用される。

 デジタル基盤の整備も重要だが、より重要なのは、その運営組織である。市民が信頼し共に未来を創り上げるための組織でなければ、市民からデータ共有の理解が得られないからだ。ITシステムの導入そのものを目的とするのではなく、目指すビジョンを明確に定義し、そこから導かれたルールに即した運営組織を整備してオープンに運営する必要がある。

 それができてこそ市民から信頼される組織となり、信頼関係が構築される。デジタル田園都市国家構想会議でも、データ連携基盤の整備が論点の1つとして明示されているように、国民から信頼される運営体制を最重要視してほしい。

論点4:デジタル推進員の全国展開

 これまで政府は、ITコーディネーターやまちおこし協力隊、コンサルタントなど、地方で不足している人材の外部からの派遣を支援してきた。ただ、街づくりの中核となる人材を外から遣してくるのでは不十分である。その地域に移住(2拠点居住を含む)し、地域に根付いた形で本格的なスマートシティを推進するべきだと考える。

 定期的な会議だけでは、地域の実態・本音は理解できないし、課題をヒアリングするだけでは課題は見つからない。本当の課題は、自分で発見する必要がある。街づくりの中核となる人材(アーキテクト)は、地域課題を“一市民”として自分事としてとらえ、共助型コミュニティの一員として参加したうえでコミュニティを育て導けなければならないのだ。

 筆者らの調査によれば、人々の生活圏を基に日本全国で必要となるコミュニティの数は約300エリアある。ハブとなるサテライトオフィスを300作り、全国にいる300人以上のアーキテクトが共助型コミュニティをけん引するモデルをデジタル田園都市国家構想会議には提案した。これは十分に実現可能な政策ではないだろうか。

地域特性を活かす自立分散型を目指して

 今後、デジタル田園都市国家構想会議が示した論点が整理されていくことで、「新しい資本主義」の全体像が見えてくるだろう。いわゆる「成長と分配」についても、デジタル田園都市国家構想を進めることで、DXによる生産性向上を基本とする成長戦略と、きめ細かいタイムリーな分配が可能になる。

 この構想は、地域からデジタル化を推進するボトムアップ型になる。それだけに、東京を中心とした都市部の成功モデルを地域にコピーするのではなく、地域の特性を活かした自立分散型を目指していく。

 これからの時代、地域の自立を目指したうえで“三方良し”の社会を実現すべきだと考えている。そのために地域DXプロジェクトであるスマートシティを強く推進し、その実現が、デジタル田園都市国家構想を成就させることになると確信している。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同代表。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。

現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。