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スマートシティを成功に導く運営組織のあり方・作り方【第13回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2022年2月17日

経験と提言4:戦略的な企業誘致では「プロジェクト実現のためのルール合意を条件に」

 デジタル田園都市国家構想は、地方創生戦略をDXを中軸にバージョンアップする政策だと考えている。そのためには企業誘致を戦略的に行わなければならない。東京一極集中の是正を進めるためには、この政策を機能分散のための大きな“うねり”にしていくべきだ。前項の協議会が示すスマートシティ像が、市民のみならず、民間企業にとっても魅力的であることが大事で、投資に見合うだけのプロジェクト内容にする必要がある。

 従来、企業誘致策で挙げられてきた税制優遇策や移動に伴う設備投資の補助などは効果が限定的だ。総務省がまとめた地方創生政策において、社員数の一定数を地方に移した場合の法人税減税策を適用した実績はほぼなく、企業は税制優遇策のみで動くわけではないことを表している。その地域で計画されているスマートシティプロジェクトが魅力的かどうかによって判断させることは間違いない。

 市民にとっても、民間企業にとっても魅力的なスマートシティを実現するために重要なことは、事前にルールを設定し、そのルールに合意できる企業を誘致することである。会津若松では、図2に挙げる誘致のための10のルールと選定プロセスを定めている。最近でこそ国内でも議論が高まってきているが、DXの中核となるデータが誰のものかということを特に重要視している。

図2:会津若松における企業誘致のための10のルールと選定プロセス(出所:アクセンチュア)

 スマートシティはディープデータを活用して地域をよみがえらせるプロジェクトである。そのためには図2の6条にあるように、「データは地域の共有財産とする」必要がある。筆者たちは、この条文に合意できない企業は、たとえ先端事業に取り組む著名な企業であってもお断りしてきた(図3)。この点も重要ポイントとして是非、参考にしてほしい。地域や市民主導のプロジェクトであるスマートシティモデルであれば当然の条件である。

図3:企業誘致においても地域ビジョンの共有と強いコミットメントが不可欠である(出所:『会津若松市スーパーシティ申請資料』)

経験と提言5:運営体制確立の「最終目的は市民のウェルビーイング」

 図4は、会津若松の運営体制の現状である。ここまで解説してきた点などを試行錯誤して修正しながら確立した。これまでの集大成として、スーパーシティを進める上での運営体制にもなっている。

図4:会津若松の2022年2月時点のスマートシティ推進体制(出所:『会津若松市スーパーシティ申請資料』)

 この推進体制の下、これまで注力してきた医療分野や教育分野、街づくりに加え、最終目的である市民のWell-being(幸福追求)分野のアドバイザーも迎え、誘致した企業各社や、これからも会津を引っ張っていく地元産業の皆さんとともに未来を描いていく。

 日本の人口減少に歯止めをかけるのは困難なことだが、いかにDXで社会や地域を支えて行くべきか。今後も地域の課題を自分事として解決し、市民との距離を解消し、あるべき官民連携組織のモデルへと成長していくことを目指している。

 DXに対しては、それを“便利ツール”と見る表層的な視点ばかり目立っている。だが、日本社会を支える”基盤“として注視すれば、スマートシティプロジェクトがどれだけ重要で、デジタル田園都市国家構想で何を実現しようとしているのかが自ずと見えてくるだろう。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同代表。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。

現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。