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スマートシティを成功に導く運営組織のあり方・作り方【第13回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2022年2月17日

経験と提言2:アーキテクトを設置し「住民として地域課題を拾い上げる」

 スマートシティにおけるアーキテクト、つまり「スマートシティ・アーキテクト」とは、市長の右腕となって地域の関係者と政策のデジタル化を協議・調整し、実行組織をガバナンスしながら推進する役割のことである(第6回参照)。前項の行政内のスマートシティ統括が“行政内”まとめるのに対し、アーキテクトは“地域全体”を行政と連携しながらまとめることになる。行政側と民間側の双方を調整する重要なポジションだ。

 スマートシティ・アーキテクトという役職は2022年2月時点では、明確に職務文書が整理されているわけではない。だが、その設置がスーパーシティの申請要件でもあるだけに、これから明確に定義されていくことになるだろう。

 では、スマートシティ・アーキテクトは、どう選定していくのが良いか。筆者の経験からは、「アーキテクトはその地域の住民であることが重要だ」と強く提案したい。時には2拠点居住のケースもあるだろうが、アーキテクトの最も重要なミッションに地域内の各業界との折衝があるからには、地域に根差した人材が望ましい。

 例えばアーキテクトが東京から派遣され地域に通うとすれば、地域の課題を地域の住民からヒアリングすることになり、自分自身が市民として課題を拾い上げているわけではない。それでは従来の「IT受託開発モデル」と何ら変わらず、発注者と受託者の関係では、アーキテクトが名実ともに責任者になることはない。

 アーキテクトは地域の政策課題をDXにより変革を実現する人材だ。これまでの既得権益組織のあり方をあえて壊すことも必要になる。そのため、時に激しい議論になることも少なくない。それを乗り超えていくためには地域との信頼関係が不可欠だ。そのためにはアーキテクト自身が一住民として課題を拾い上げ解決案を常に考えておく必要がある。一住民・当事者として真剣に向き合っていることへの信頼を地域から得たうえで、オープンに、かつフラットに協議できなければならない。

 これは、とても都内から通いながらできるミッションではない。地域を良くするために、日本を良くするために、そして次世代のために考える強いパッションの持ち主でなければならない。

 アーキテクトに適した人材を地域内で探すのは難しいと思われるかもしれない。しかし、筆者らが国内でスマートシティを展開している地域にはすでにアーキテクトが配置できている。政府が進める先行100地域においても、100人程度のアーキテクトを配置することは決して不可能ではないだろう。

経験と提言3:スマートシティ協議会を設立し「最初は限定的なメンバーで」

 スマートシティの立ち上げでは「スマートシティ協議会」が設置される。同協議会の設置に向けては、行政や教育機関、商工会議所、観光関連組織、医療業界、エネルギー業界など、地域の主たる業界からコアメンバーを集めた準備委員会の立ち上げから始める。

 もちろん立ち上げ当初は、市長もしくは副市長が本部長となり、アーキテクトと連携しながら市の課題を協議できるメンバーで作ることになる。DXだからといって必ずしも若者中心の組織にする必要はない。市民から見て地域に責任を持った活動をされる方が選任されるべきである。

 協議会は段階を踏んで成長させていく必要がある。そのため最初は議論を活発にするためにもメンバー数は限定的な方が良い。例えば、会津若松市で立ち上げた準備メンバーは、市長をリーダーとした7人の推進会議だった。

 協議会では主だったスマートシティのサービス計画を決めていくことになる。スマートシティの心臓部となるデータ連携基盤の運営組織や運営ルール、特に個人情報保護委員会の設置を含むガバナンス体制を確立しなければならない(図1)。そのためには協議会と連携する法人格を有する組織が必要になるため、その準備も行わなければならない。この組成もアーキテクトを中心に整備することになるだろう。

図1:スマートシティの推進にはガバナンス体制の確立も不可欠である(出所:『会津若松市スーパーシティ申請資料』)