• Column
  • Open My Eyes to Smart City 人、街、地域、そして社会をつなぐ

デジタル田園都市国家構想が目指すべきDXの本質【第14回】

会津若松が先駆けたオプトイン社会が日本を再生する

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2022年3月14日

デジタル化の本質2:中核はオプトインによるデータ

 DXは、その中核に活用可能なデータがなくては前に進まない。すべてはデータに基づいて、あるべき変革を進めなければならない。日本政府は、2年に及ぶ新型コロナ対策で、データに基づく政策決定ができなかった。緊急事態宣言下ですら、スマートフォンの位置情報を個人情報として活用できなかった。

 なぜなら、データ活用に関して国民のコンセンサスを得ておらず、その収集方法も確立できていないためであり、国民のデータ活用を厳しく制限した個人情報保護法の壁を越えた議論ができていないからだ。

 では、EU(欧州連合)の個人情報保護法にあたる「GDPR(一般データ保護規則)」に沿っているEU加盟国では、どうだったのだろうか。例えばデンマークでは、ある通りの右側には行動制限をかけながら、左側では自由な経済活動ができるなど、デジタル化によって細かな行動制限策を打っている。そうした政府の対策を同国民は支持している。

 これに対し日本は、首都圏の1都3県という広大なエリアで制限をかけたり、飲食業をターゲットにした政策を打ったりと、有識者の経験則で判断してきた。DXの時代とは言えない、このような政策判断では国民の理解には、つながりにくいのではないだろうか。筆者は日本政府に、デジタルを活用したデンマークのコロナ対策に注目・参照すべきだと提言している。

 DXで活用するデータには、(1)行政が持つデータを利活用するオープンデータと、(2)民間企業や経済社会をデータ化した地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」のようなビッグデータがある。だが、より重要なのは国民が日々生成している健康やエネルギー消費、購買履歴、行動履歴といったパーソナルデータだ。

 パーソナルデータの活用が可能になれば、個々人への適切なフィードバックも可能になり、国民の行動変容を促せる。さらに国民が2次利用を承認すれば健康データは創薬などにも使われ医療の発展に寄与する。だからこそ国民一人ひとりが「何のためのDX戦略なのか」を理解し、オプトイン(事前承認)により地域のためにパーソナルデータを共有し、利活用を進めることが重要になる。

 国民がデータ共有によるメリットを享受できれば、オプトイン参加者は地域全体に広がり、データの価値はさらに高まる。それを全国へ展開できれば、日本がDX社会そのものへと変革し、パンデミック対策や防災対策もステージが異なる段階へ進む。地方の産業が生産性を高め賃金アップにつながり、医療も教育も農業も好循環へ転換できる。

 そう考え会津若松のスマートシティプロジェクトを進めてきた。立ち上げから10年がたった今、各領域での成果が生まれ、参加した市民が実感を持ち始めている。筆者は「変革が実現可能なフェーズに入った」と自信を持って言えるようになった。

デジタル化の本質3:個人のデータは個人のもの

 個人のデータに関しては本質的な議論が必要だ。だが「データは誰のものか」という問に対しては、「個人に関わるデータであれば、個人のものである」と結論付けてはどうだろうか。

 会津若松でのスマートシティプロジェクトでは当初、省エネプロジェクトを推進するために、各家庭の消費電力を把握できるよう分電盤にセンサーとしてのHEMS(Home Energy Management System)を設置した。集めた情報は各家庭へのフィードバックとして、省エネに向けたアドバイスするサービスを提供した。本サービスの参加者には、データ利活用の範囲を明確にしたうえで事前承諾を取った。オプトイン社会のスタートである。

 その後、IoTを使ったヘルスケアプロジェクトでは、市民一人ひとりの脈拍や血圧、体温などのバイタルデータを収集し、健康推進のために必要な食事やレシピをフィードバックした。バイタルデータはヘルスケアデータのなかでも重要な情報であり、個人情報のなかでも特にセンシティブなデータに位置付けられる。

 このヘルスケアプロジェクトについて筆者は2015年、会津若松の市議会で説明した。そこでは「データは市民のもの」と位置付け、オプトインに基づき、プロジェクトのガバナンス体制を明確にして進める必要性を説明して、議会承認を得た。会津若松市のスマートシティプロジェクトの基本の考え方がオプトインであることを明確にできた良い機会になった。

 「個人のデータは誰のものか」については改めて行政とともに議論を深めたい。