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デジタル田園都市国家構想が目指すべきDXの本質【第14回】

会津若松が先駆けたオプトイン社会が日本を再生する

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2022年3月14日

デジタル化の本質4:データの位置づけで企業主導か地域主導かが決まる

 データをビジネスに活用して大成功を収めてきたのがGAFA(Google、Amazon.com、Facebook:現Meta、Apple)などに代表される巨大IT企業だ。これに対し、データを活用して地域DXを推進するのがスマートシティプロジェクトである。スマートシティプロジェクトは地域の全領域をカバーするため、多くの領域で専門企業が関わりプロジェクト体制を構築する必要がある。

 そこで重要になるのが企業のデータの扱いに関するスタンスだ。GAFAモデルと同様のビジネスモデルを採る日本企業は、「データは自社が投資して集めたものであり、法律を遵守して自社で活用する」としている。

 これに対し、データが地域で活用できなければ意味をなさないスマートシティプロジェクトでは、「データは市民のものであり地域の共有財産である」という立場である。ビッグデータを保有するとされるネット産業がスマートシティプロジェクトに積極的に参加できていないのは、このビジネスモデルの違いがある。

 加えて、カナダ・トロントで、Googleの兄弟会社であるSideWalk Labsが地域全体のデータを1社で管理しようと仕掛けたものの住民の反対が多く進められなかったという実例も、大きく影響しているものと思われる。

 スマートシティプロジェクトに参加している企業では、自社サービスで収集できるデータと、他社が別のサービスで収集したデータを組み合わせることで新たなサービス開発を目指しているケースも多い。「医療×防災×食×移動」のように連携し、サービスレベルを大幅に向上させるモデルも会津では始まろうとしている。この新たな産業エコシステムが日本の地域に変革をもたらし、支えていくものと確信している。

デジタル化の本質5:オプトイン社会が日本を立て直す

 筆者はオプトイン社会の構築を10年間、進めてきた。オプトインを前提としてアクセンチュアが開発し、サービス提供してきた都市OSも、政府が進めるデータ連携基盤の標準化に準拠し、全国へ展開が始まっている(関連記事『スマートシティが求めるデータ連携基盤の進化と都市OSへの発展』)。しかし達成したいのは、都市OSの全国制覇ではなく、日本がオプトイン社会に変革することである。

 地域DXは双方向の社会を実現し、信頼に基づいて、あるべき方向へ変革を進める方法論として大変有効だ。その中核となる重要なデータが市民のものである以上、その変革はオプトイン社会を推進することで成就する。

 人口1億2000万人超の民主主義国家である日本をトップダウン型で変革するには限界がある。しかし、日本でも地域DXを国民一人ひとりが腹落ちさせ、生活圏ごとにデータ化ができれば、人口600万人の国であるデンマークが成し遂げた国民との信頼に基づく政策とデジタル社会を実現できるのではないだろうか。

 デジタル田園都市国家構想を打ち出した岸田政権は、地方からのボトムアップ型のデジタル社会を目指すとしている。国民とともにオプトイン社会を構築できれば、日本は必ず再生し、民主主義国家のリーダーに今一度なり得ると信じている。そして国民が危機感を共有し、次世代を自分事として捉えるようになれば、若い世代が中心になって活躍できる時代がやってくる。

 本コラムは、デジタル変革の推進者以外の方々にもお読みいただき、デジタル化の本質が国民全体に少しずつ広がっていくことを期待している。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同代表。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。

現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。

追悼

本連載『Open My Eyes to Smart City 人、街、地域、そして社会をつなぐ』および連載『会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか』の筆者である中村彰二朗さんが2022年3月9日、病により急逝されました。本稿が最後の寄稿原稿になってしまいました。

会津若松の連載は、弊誌創刊直後の2017年11月のスタート以来、4年強の、ほぼ毎月、弊誌にご寄稿いただきました。長らく実体験に基づく貴重な知見のご開示、本当にありがとうございました。謹んでお悔やみ申しあげますとともに、心からご冥福をお祈りいたします。