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  • 新たな顧客接点を創出するコンタクトセンターの姿

「売り上げ向上/販売機会損失防止のためのAI」の提供価値(基盤用AIその3)【第6回】

中野 正人(ジェネシスクラウドサービス ソリューションコンサルティング本部・本部長)
2022年1月21日

個別最適化で「私を分かってくれている」と印象づける

 AI技術を活用したコンタクトセンターの運用は、MAツールと組み合わせることで、効果を最大化できる。MAツールによるセグメント化したプロモーションと、コンタクトセンターによる顧客1人ひとりに最適化した個別対応とが、それぞれを補完し合えるからだ。

 コンタクトセンターの個別対応を可能にしているのが、SOR(System of Records)が持つ個々の顧客について履歴データと、SOE(System of Engagement)が持つリアルタイムのデータである(関連記事)。SORは、過去の購買履歴やコンタクトセンターでの対応履歴など顧客の背景情報を提供する。一方のSOEは今現在の購買確度を提供する。

 これらを組み合わせれば、オペレーターとの相性までを含めた、きめ細かなマッチングが可能になり、顧客1人ひとりにパーソナライズした最適かつ能動的なリアルタイムは働きかけにより販売機会を逃さないようにできる(図2)。

図2:AI技術を使った顧客行動のリアルタイムな解析結果と、CRM(顧客関係管理)システムの情報を組み合わせることで顧客対応のパーソナライズ化を図る

 そもそも“勝ち筋”パターンに乗っている顧客であれば、最小限のリソース投入でも成果を上げられる。そこに、個々の顧客に特有の情報を付加できれば、「私のことを分かったうえで薦めてくれている」という印象を与え、顧客体験を高められる。さらに相性の良いオペレーターあるいは“最後の一押し”に長けた実績のあるオペレーターにルーティングできれば理想的だろう。

 こうした対応が集積され、それをさらにAI技術で解析すれば、Webサイトに不足している情報を浮き彫りにしたり、顧客がどのポイントで立ち往生しているかを可視化したりが可能になる。

 それをWebサイトの改修に役立て、MAツールで効果を追跡することで、Webサイトだけで購入に至る割合を増やせるだろう。コンタクトセンターのリソースを増やさなくても売り上げを高められる仕組みが成立するはずだ。

コンタクトセンター発の顧客体験が不可欠に

 Webサイト上で問題を解決できなかった来訪者が、最終手段としてコンタクトセンターに電話をかけているのが現状だ。一方で「電話がつながらない」「時間がかかっただけで何も解決しなかった」といった体験は、返品や返金、解約の引き金になる。悪い体験はSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などで拡散され、企業イメージを傷つけると言われてきた。

 しかし最近では、その傾向にも若干、変化が現れてきている。冒頭に紹介した調査『The Connected Customer Experience』によれば、「どのようなサービス体験をソーシャル上で共有したいと思うか」という質問に対し、消費者の間には、「ネガティブな体験よりもポジティブな体験を共有する」傾向にあることが明らかになっている(図3)。

図3:消費者がソーシャルで拡散するのは“ネガティブな体験”よりも“ポジティブな体験”という傾向がある

 コロナ禍で店舗というチャネルが使いにくくなった今、コンタクトセンターの重要性はさらに高まっており、ロイヤルティにも大きなインパクトを与えている。かつてないほどに、コンタクトセンターから良い“体験”を提供し続けられなければ、企業は顧客を維持できないのだ。

 ただ、今回解説した“勝ち筋”の顧客にオペレーターが直接対応することは、コンタクトセンターのリソース的にも人件費的にも、いわば“ファーストクラス”の対応である。労働人口減のなかではオペレーターの確保も難しくなっていく。

 この点を解消する施策として導入が進んでいるのがAIボットによる自動対応や能動的な働きかけだ。コンタクトセンターの活動と上手く組み合わせれば効果を最大化しながらも、コンタクトセンターのリソースの効率化につなげられる。次回は、このボットについて解説する。

中野 正人(なかの・まさと)

ジェネシスクラウドサービス ソリューションコンサルティング本部・本部長。SAPジャパンや日本マイクロソフトを経て2011年にジェネシス入社。ビジネスコンサルタントとして顧客のコンタクトセンター成熟度調査や、その結果に基づくコンタクトセンター高度化プランを多数立案してきた。海外組織とのパイプを生かし、事例情報の収集や海外視察ツアーの企画などに取り組む中で得たコンタクトセンターの将来像に関する幅広い知見を顧客へのコンサルティングに生かしている。