• Column
  • 新たな顧客接点を創出するコンタクトセンターの姿

「良いCXをもたらすためのAI」の提供価値(基盤用AIその1)【第4回】

中野 正人(ジェネシスクラウドサービス ソリューションコンサルティング本部・本部長)
2021年10月4日

前回は、コンタクトセンターのシステム基盤への搭載が進んでいるAI(人工知能)技術について、提供する機能の別に3つのカテゴリーに分けて紹介した。今回から、それら3つのカテゴリーのAI技術について詳しく解説していく。今回は「良いCX(顧客体験)をもたらすためのAI」を取り上げる。

 コンタクトセンターの機能を提供するシステム基盤に搭載が進むAI(人工知能)技術について前回、3つのカテゴリーを紹介した。(1)良いCXをもたらすためのAI、(2)コンタクトセンター運用を容易にするためのAI、(3)売り上げ向上/販売機会損失防止のためのAIである(図1)。

図1:コンタクトセンター基盤への導入が進むAI技術の3つのカテゴリー

 今回から、これら3つのカテゴリーのAI技術について詳しく解説していく。今回は、(1)良いCX(顧客体験)をもたらすためのAIについて解説する。

AIが顧客とのエンゲージメントの次元を変える

 デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けたシステム基盤の議論の1つに、「SoR(System of Records)」と「SoE(System of Engagement)」の別がある。

 SoRは一般に、ERP(統合基幹業務システム)に代表される業務処理システムを指す。ビジネスを展開するなかで発生する各種のトランザクション(販売・発送・購入者情報など)をデータベースに記録するタイプのシステムだ。企業が構築・運用するシステムの多くはSoRに属する。

 一方のSoEは、企業が顧客と相対する瞬間に、両者にとって最適な組み合わせを実現するために、顧客接点を司るシステムを指す。「エンゲージメント」という概念を最適な日本語に訳すのは難しいが、「企業と顧客の“一期一会”を成功裏に終える」といったニュアンスがふさわしいかも知れない。

 この議論において、コンタクトセンターのためのシステム基盤はSoEの代表的なシステムの1つである。消費者が企業のコンタクトセンターに電話をかけるといったシチュエーションは、「企業と顧客が相対する瞬間」の最たるものだろう。その電話に対し、最適なオペレーターが対応できるようにマッチングを図る仕組みは、エンゲージメントそのものであり、ここをどれだけ最適化できるかがCX(Custmer Experience:顧客体験)を大きく左右する。

 このSoEをシステム的な側面から見れば、これは複合イベント処理(CEP:Complex Event Processing)の一種である。企業と顧客の双方の情報を組み合わせ、その中から最も有効なものを瞬時に判断する仕組みだ。

 このCEPにAI(人工知能)技術を融合させることで、SoEにおけるエンゲージメントを従来と全く異なる次元で実行できるようになる。その可能性を、コンタクトセンター基盤の基本機能である「ルーティング」を例に解説したい。ルーティングとは、顧客からの電話を適切なオペレーターに接続する機能であり、CXの根幹を支えている。