• Column
  • 移動サービスを生み出すデータの基礎知識

移動データのビジネス活用プロジェクトの要諦【第2回】

弘中 丈巳(スマートドライブ 執行役員CRO)
2021年9月27日

Quick Winを実践するための3つのポイント

 初期のゴール設定が①に軌道修正できたうえで、Quick Winを実践するためのポイントが3つあります。

ポイント1:少ないデータから活用価値を考える

狙い :プロジェクトを広げるのではなく“絞る”ことに意識を向ける

 Quick Winの実践において最初に理解しなければならないのは「大量のデータが必ずしも我々を成功に導いてくれるわけではない」ということです。重要なのは「データ量(インプット)」ではなく、データを元に導き出される「答え(アウトプット)」だからです。

 すなわち、データを集めてから何ができるかを考えるのではなく、データを集める前にどのようなアウトプットを出すことが「ネクストアクション」につながるのかを考えるということです。ネクストアクションとは、その結果(=アウトプット)によって「誰が・いつ・何を・どうやって」進めるのかが明確に決められることです。

 例えば弊社では、移動データを(1)車両動態データと(2)車両走行データの2つに分けて考えます。車両動態データは、重力、加速度、速度、位置などのデータ。走行データは、走行開始・終了地点の緯度経度、走行距離、走行時間、アイドリング時間、急操作回数などのデータです(図2)。

図2:移動データは(1)車両動態データと(2)車両走行データに分けられる

 図2を見れば、これほど多くのデータは魅力的に見えるかもしれません。ですが、大量データに埋もれる前に、まずはしっかりと、どのようなアウトプットを出すべきかを決めきることが重要です。

ポイント2:AI活用を考える前にBIを考え抜く

狙い :データありきではなくビジネス(生活)ありきの改善策を考える。データを集める前に解くべき課題をブレさせず精度を高める。

 AI(Artificial Intelligence:人工知能)というビッグワードの出現により、ポイント1同様に、次のような思考サイクルが起こりがちになっています。

「多くのデータを集める → AIにデータを食わせる → 何か期待しているアウトプットが出てくる(データ/AIが答えを教えてくれる)」

 しかし重要なのは、「AIをどう使うか」を考えるよりも先に、なすべきはBI(Business Intelligence)、つまりビジネスの構造をしっかりと理解し、我々の解くべき課題であるビジネス上のボトルネックは何なのかを考え抜くことです。

 ちなみに、ここでいうBIとは「BIツール」のことではなく、「Businessに対する理解力や思考力」の類を指しています。

ポイント3:データ活用の「型」を用意しておく

狙い :検討事項および議論のレイヤーを意識し課題を設定していく

 第3のポイントは、データ活用を進めるための、いくつかの「型」を持っておくことです。

 ビジネスのフレームワークは無数に存在しています。それらフレームワークに移動データを当てはめると、どのような課題解決ができそうかを、予め“武器”として仕込んでおきことが重要です。

 例えば弊社では、図3のような法人企業向けフレームワークを用意しています。「企業価値の向上」をゴールに「収益拡大」と「CSR推進」に分けたうえで、収益拡大ではさらに「売上増加」と「コスト削減」に分岐され、コスト削減は「人的コスト削減」と「車両関連コスト削減」となり、それぞれが分岐されながら、最下段には具体的なアクションが見えるように設定しています。

図3:「企業価値の向上」をゴールとしたフレームワークの例

 「これが正解」という訳ではなく、1つの例でしかありませんが、こうしたフレームワークを持っておくと、最下段のタスクがアクションではなく課題になってしまうことも防げます。

 最上段のゴールからスタートしたものの、議論が下に落ちていかず同じレベルでの議論が続く場合は、「下に、下に」と議論を掘り下げ、具体的なタスクまで落とすことで、プロジェクトにおいて誰が、どのように動くのかが明確になっていきます。

 逆に、最下段から議論がスタートした場合は、「Why」を用いて「上に、上に」と議論を進めていけば、より効果的な解決策が見つかる可能性が広がっていきます。