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  • 顧客価値を高めるためのデータ活用とCDP

あなたの会社のDXが進まない理由【第1回】

小川 裕史(サイトコア ソリューションコンサルタント)
2022年4月7日

課題1:個人の嗜好に基づく“おもてなし”

 上述したように、デジタルチャネルでは“おもてなし”ができない、あるいは難しい。DMPでは、自社データを充実させるために、サードパーティデータを統合し、顧客分析を実行する。だが、1人ひとりの顧客像を明らかにするわけではない。その人の“大まかな傾向”はつかめても、過去の履歴に基づいた適切なパーソナライズをデジタルチャネルに反映することは難しい。

 商品を閲覧している最中もユーザーニーズは刻々と変化する。旅行サイトなどで「どこかに旅行に行こう」と見ているうちに、「こっちが良かったけど、あっちもいいな」「さっきの地方が良かったかな」と具体的なニーズが定まってくる経験は誰もが持っているだろう。

 こうしたリアルタイムな変化にDMPのペルソナでは対応しきれない。この点を解消する仕組みとして注目が高まるのが「CDP(Customer Data Platform)」だ。CDPでは、膨大なデータからペルソナを作成するのではなく、個人に紐づくデータを活用し、リアルタイムに顧客の状態を可視化する。CDPについては次回以降で詳しく説明したい。

課題2:プライバシーデータの規制対応

 サードパーティが提供するプライバシーデータの取り扱いが厳しくなっている。2022年4月施行の改正個人情報保護法は、個人のプライバシー情報になるサードパーティデータを、その個人に断りなく勝手に第三者に提供したり、活用を促したりすることを禁止している。

 DMPのなかには、DMPベンダーが独自に収集した大量のデモグラフィック情報を予め用意している製品がある。その情報について個人からの使用許可が取得できていなければ、そのDMPを自社Webサイトでのおもてなしに適用するなどもってのほかである。

課題3:組織のあり方

 すべての課題は「組織のあり方」に集約される。一般にIT部門・IT戦略を取り仕切るCIO(最高情報責任者)は、データ連携やシステム連携に消極的になりがちだ。特に、あちこちからデータを集め、膨大な量のデータ分析をするとなると「システム全体に悪影響が及ぶのでは」と心配するCIOもいる。

 一方でマーケティング活動を司るCMO(最高マーケティング責任者)は、データを活用して収益を上げるのが仕事だ。分析できるデータは多ければ多いほど多彩かつ詳細な分析ができるため、「サードパーティデータを含め、社内のデータもできるだけ集約したい」という思いを持っている。

 そのため、マーケティング部門や営業部門が主導しデータ活用を進めた結果、データ活用に関する責任の所在があいまいになり、何か問題が起きた時に対処しきれないケースはとても多い。データ基盤らしき仕組みを作っても、完全にデータを集約しきれず、あちこちに点在してしまったり、古くからある基幹データが埋もれてサイロ化してしまったりということもある。

 肝心な時にパーソナライズできない、プライバシーデータの規制に対応できない、そもそもデータをフル活用できる組織体制になっていない——。これらの課題を解決するには、根本原因である組織について抜本的に立て直していく必要がある。データ活用の目的を明確化し、責任の所在や役割を決めておかないと、組織として一枚岩にならず、「データ活用したい」部門が、「したくない」部門と話せず、自分たちだけで勝手に進めてしまうリスクがあるからだ(図2)。それがデータのサイロ化・分散化を招く。

図2 データ活用できない組織の特徴