- Column
- 顧客価値を高めるためのデータ活用とCDP
改正個人情報保護法などへの対応には“組織の仕組み”が不可欠【第2回】
「クッキー(cookie)データ」の取り扱いに留意する
改正個人情報保護法について、企業のデータ活用に関わる部分から特に注意が必要なポイントを簡単に解説する。
今回の改正で最も留意すべきは、上述したように、Webブラウザーにおける「クッキー(cookie)データ」の取り扱いに関する改正である。
クッキーとは、Webブラウザーに保存される利用環境に関するデータのことだ。あるWebサイトを初めて訪問すると実は、サイトを訪問した日時やWebブラウザー/OSの種類やバージョン、IPアドレスなどが記録されている。ログインIDとパスワードを設定しておけば、2回目からIDなどの入力が不要になるのも、クッキーが保存されているからだ。
クッキー情報は単なる数字や文字の羅列であり、厳密にいえば個人情報には当たらない。しかしこのクッキー情報は、インターネット上の種々のデータを管理する「DMP(Data Management Platform)」などが保有するデータと突合すれば個人が特定できる場合、改正個人情報保護法では「個人情報だ」として認識される。結果、その利用には本人の同意が必須になる。
ちなみに、今回の改正のきっかけになったのが、就職活動中の学生の内定辞退率を分析していた「リクナビ事件」である。
リクナビ側は、1人ひとりのクッキーデータに対し、内定辞退率を分析し企業に提供していた。そのままなら個人は特定できないが、企業側では応募してきた学生の個人情報を持っている。両者を突合すればそのクッキーが誰に紐付いているのかが特定できる。それが「本人に断りなく学生の情報を乱用し、当人の不利益につながる行為」として問題視された。
DMP事業者が自社で収集したサードパーティのクッキーデータを提供する場合、膨大なクッキーデータを構成している全Webユーザーから使用許可を取る必要がある。DMP事業者からサードパーティデータを購入する際は、許可を得られているのかどうかをDMP事業者に事前確認しなければならない。これには相当の手間がかかる。
なお、サードパーティークッキーの取得についてはすでに「FireFox」「Safari」「Microsoft Edge」といった主要Webブラウザーが規制を強めている。米Googleの「Chrome」も当初予定より遅れているものの、この動きに追随すると見られている。
環境変化への対応には自社保有データの充実が必要に
データを有効活用していくうえで、法規制や環境変化への対応は不可欠だ。だが、そのために毎回、やり方を変えたりシステムを入れ替えたりすることは大きな損失になる。これに対応するには、自社で保有する「ファーストパーティデータ」を、自社の力で充実させていくしかない。
個人情報保護法は、自社で保有している顧客データなどの個人情報の活用を規制しているわけではない。そもそも個人情報保護法は、活用を規制するものではなく、その個人情報の持ち主である人の不利益にならないように“適切に”活用することを推奨するものだ。
“適切な”活用とは、組織内にあって個人の判断でデータやITの使い方を決めたり導入したりしないということだ。ルールに基づいて組織全体でデータを正しく利用する。
そもそもビジネスを加速させるに当たり、どんなデータが、いつ必要になるのかを事前に見極めることは困難だ。部門の垣根を超え、いま自社が保有しているあらゆるデータを横串に刺して使っていく仕組みを作り、全社でデータを“育てて”いくことが求められる。
ただデータ活用の取り組みは、どうしても声を上げた一部の部門に閉じ“サイロ化”する傾向がある。全社で戦略的に使っているというケースはあまり見られない。
営業部門なら顧客データを集約するCRM(顧客関係管理)、EC(電子商取引)サイトなら顧客データとECの購買履歴、マーケティングなら広告データや顧客データというように、各部門では利用するデータを決め打ちしがちだ。しかし、企業が利用できる、あらゆるデータに横串を刺し、集約して活用することが重要だ。
ちなみに第1回で述べた、経営層や中間層、現場、IT部門の担当者によるデータ活用ワークショップも実は、サイロ化しがちなデータ活用の問題を解消するという目的も持っている。
全社のデータ集約のためにDMPを導入した企業もあるだろう。ただしDMPの場合、事前に許可を取っていないサードパーティデータが含まれている可能性がある。様々なデータが集約されすぎて、どのように扱えばいいのかわからないという面もある。
前回、「デジタルチャネルのパーソナライズにDMPを活用したいが、連携がうまくいかなかったり、レスポンスが遅かったりすることがある」と述べた。これは、DMPの構築方針や運用方法があいまいな場合に陥りやすい事態である。