- Column
- 移動が社会を変えていく、国内MaaSの最前線
知っておくべきMaaSの基礎知識【第1回】
日本では2019年から国がMaaSを後押し
日本でMaaSの検討が始まったのは2017年ごろからである。交通事業者や自動車メーカーが中心だった。2019年からは国が、地方自治体や事業者によるMaaSへの取り組みを支援する事業を開始している。2022年時点では、全国各地でMaaSの実証実験が実施されているほか、事業化されたサービスもある。
日本におけるMaaSへの期待は、都市部への人口集中に伴う渋滞の緩和や環境負荷の低減だけではない。少子高齢化を背景にした、地方部での人口減少や自家用車依存によって縮小する交通サービスの維持、交通空白地における買い物難民対応などの課題解決策としても期待されている。ICTを活用し都市や地域の課題を解決し新たな価値を創出するスマートシティの観点からも関心を集めている。
そのため、日本のMaaSには、マルチモーダル型のほかに、AI(人工知能)技術を使って運行ルートの効率を高める「AIオンデマンド交通」や、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)技術を使ったシェアサイクルなど、ICTを活用した新しい交通サービスへの取り組みも少なくない。小売店舗や医療施設など交通以外のサービスとの連携も積極的に考えられている(図3)。
MaaSがもたらす価値と効果は対象者によって異なる
MaaSが各地域の課題解決策であることから、MaaSがもたらす価値や期待される効果もまた多様である。以下では、MaaSがもたらす主な価値や効果について、MaaSの利用者、MaaSに参画する事業者、MaaSが提供される地域の自治体のそれぞれの別に解説する。
利用者にとっての価値と効果
価値 :複数の交通手段や移動サービスがスマホアプリなどを使って、あたかも1つのサービスであるかのようにシームレスに利用できる。シェアサイクルなどのシェアモビリティやAIオンデマンド交通、自動運転モビリティなどの新たなモビリティサービスが組み合わされることで移動の選択肢が増える。
効果 :自家用車などの移動手段を所有する必要がなくなり、移動コストの低減や移動時間の短縮が期待できる。交通サービスが統合されることで、複数の選択肢から個人のニーズに合わせた最適な移動方法を選択できるようになる。
事業者にとっての価値と効果
価値 :複数の交通サービスの統合により、サブスクリプション(購読)制などの柔軟な料金設定が可能になる。利用者の出発地から目的地までの移動に関するデータが取得できるため、利用実績に基づく交通サービスの最適化などが可能になると考えられる。
効果 :利便性の向上による利用者の増加や、ICTの活用による業務効率化を通じた、収益の増加が考えられる。鉄道事業者や不動産事業者などは、利便性の高い交通が実現することで、沿線地域や開発地域の価値向上が期待できる。
自治体にとっての価値と効果
価値 :AIオンデマンド交通の導入などが、住民ニーズにマッチした地域交通の改善や維持の実現につながる。観光客を対象とした取り組みでは、訪日外国人を含めた地域外の人々に地域の魅力に触れる機会を増やせ、観光客を呼び込む機会になる。
効果 :高齢者への運転免許返納の促進や、自家用車利用者の公共交通への転換が期待できる。移動の利便性が高まることで地域住民の外出が促進される。観光客を含めた地域への人の流入が増えれば、地域の賑わいや消費の増大、ひいては持続可能な地域社会の実現へとつながると期待できる。
次回は、日本国内におけるMaaSへの取り組みを、その特性で分類しながら解説する。