• Column
  • 移動が社会を変えていく、国内MaaSの最前線

知っておくべきMaaSの基礎知識【第1回】

愛甲 峻(インプレス総合研究所)
2022年5月30日

移動手段をサービスとして提供するMaaS(Mobility as a Service)への取り組みが日本全国に広がっている。国が主導する施策も2022年度には4年目を迎えた。多くの民間事業者や地方公共団体が“移動”に関する課題解決や利便性の向上を目的に実証実験や商用化に動いている。今回は、MaaSの概念や、その歴史を整理するとともに、MaaSがもたらす価値と期待される効果を解説する。

 MaaSは「Mobility as a Service」の略称である。Mobilityは可動性や機動力という意味から転じて「移動手段」を表している。MaaSとは「移動手段をサービスとして提供する」という意味合いになる。

移動手段にクラウドの概念を採り入れたMaaS

 移動手段としてのMaaSは、複数の交通手段をシームレスにつないだりシェアリングしたりすることで、新しい移動サービスを提供し、移動に関する課題を解決するとともに、人々のライフスタイルや価値観の変容を促す。昨今、関心が高まるスマートシティ/スーパーシティの構成要素としても期待されており、その重要性が高まっている。

図1:MaaSは複数の交通手段をつなぎ移動に関する課題を解決するとともに、人々のライフスタイルや価値観の変容を促す

 移動に関する課題は、都市部の渋滞や、地方における人口減を背景にした交通の縮小といった交通課題だけでなく、観光や商業などの関連分野の課題に関連するものなど様々であり、地域特性によって大きく異なってくる。それだけに全国各地での取り組み内容もまた多種多様である。

 一方、MaaSの「as a Service」という表現は、クラウドコンピューティングの発展を背景に、コンピューター業界から生まれた表現だ。クラウドコンピューティングの特徴は、利用者がサーバーなどのハードウェアや各種ソフトウェアといったリソースを所有せずに、その機能のみを比較的安価に利用できる点にある。近年では、様々なサービスを総合して「XaaS(ザース。X には提供されるリソースの頭文字が入る)」とも呼んでいる。

 こうした考え方を交通分野に置き換えたものがMaaSだ。自家用車や自転車など移動のためのリソースを所有することなく、モビリティが持つ機能をサービスとして利用する。ICT(情報通信技術)を活用して交通をクラウドサービス化し、公共交通やその他の移動手段をシームレスなサービスとして提供するのが目標だ。

MaaSは環境問題に敏感な欧州発でスタート

 MaaSへの取り組みで先行するのは欧州である。MaaSのコンセプトは2014年、ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)に関する欧州規模の会議「ITSヨーロッパ会議(ITS European Congress)」で初めて発表された。欧州では都市化に伴う自動車の増加により、渋滞や排気ガスによる環境負荷が問題になっていたからだ。環境問題への対策として、自家用車を所有せず共有して移動できるMaaSが注目されたわけだ。

 2016年には、フィンランドのヘルシンキ市において、同国のベンチャー企業MaaS Globalがマルチモーダル(複数交通の連携)型MaaSとしては世界初の「Whim」の提供を開始した。電車やバスなどの公共交通に加え、タクシーやレンタカー、カーシェアリング、シェアサイクル、電動キックボードのシェアリングなど市内にある複数の移動サービスに対し、1つのスマートフォン用アプリケーションを使って、予約から乗車、決済までが済ませられるサービスである。

図2:マルチモーダル型MaaS「Whim」のサービスイメージ。フィンランドMaaS GlobalのWebサイトより

 バスや電車、地下鉄、路面電車などの公共交通には乗り放題のチケットを用意する。チケットの料金は対象エリアや有効期間によって変動する。タクシーやレンタカーは都度課金で利用する。シェアサイクルや電動キックボードシェアリングは都度課金または有効期間付きの乗り放題チケットを使って利用できる。

 Whimの提供により、公共交通の利用率が増加したという。WhimとデンマークのRAMBOLLが実施した調査によれば、Whimの利用者の間ではヘルシンキ中心部の公共交通利用率が48%から63%に増加した。MaSが公共交通の利用率を高めるなど、人々のライフスタイルの変容につながると確認できたことは、MaaSの意義や効果に対する認識の広がりを後押ししたと考えられる。