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  • 移動が社会を変えていく、国内MaaSの最前線

社会課題の解決に向け国が推し進めるMaaS支援策【第2回】

愛甲 峻(インプレス総合研究所)
2022年6月27日

国土交通省のMaaS関連事業

 国交省では、総合政策局がMaaSの社会実装に取り組んでいる。2018年10月に開催された「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」から検討が本格化した。都市や地方が抱える交通サービスの諸課題の解決を目指し、日本の実状に即したMaaSの姿としての「日本版MaaS」の将来像や、今後の取り組みの方向性などが議論された。

 検討会の中間とりまとめ(2019年3月)を踏まえ、2019年度よりMaaSの実現に取り組む地域を公募し、モデル構築を支援している。2020年度からの「日本版MaaS推進・支援事業」では、交通以外の関連分野とも連携し、地域特有の課題解決に取り組む事業を支援している。2020年度に36地域、2021年度には12地域を選定した(図3)。2022年度の予算は、7300万円および2021年度補正予算285億円の内数が充てられている。

図3:令和3年度日本版MaaS推進・支援事業 採択地域(出所:国土交通省 報道発表資料

 日本版MaaS推進・支援事業と並行して国交省は、2020年度から「日本版MaaSの普及に向けた基盤整備事業」を実施している。地域の公共交通事業者等を対象に、MaaSを支える基盤となるモビリティの導入やシステムの整備を支援する事業で、AI(人工知能)オンデマンド交通やシェアサイクル、キャッシュレス決済設備・システムなどが対象だ。

 MaaSの実現には交通事業者をはじめとする関係者間がデータを提供し合い、連携する必要がある。そのため国交省はMaaSにおけるデータ連携やデータ活用に関する環境整備も進めている。MaaSのデータ連携を円滑に進めるための方向性を定めた「MaaS関連データの連携に関するガイドライン」の策定・改訂や、MaaSで利用されるバスに関するデータの標準を定めた「標準的なバス情報フォーマット」の策定などである。

経済産業省のMaaS関連事業

 経産省は、経済成長や産業高度化の観点から、製造産業局を中心にMaaSや自動運転などの領域を含めたICTによる交通の高度化に向けた事業を推進している。2018年6月に「IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会」を開催し、MaaSに関する検討を開始。研究会では、MaaSを含めた新しいモビリティサービスを巡る国内外の現状と課題、今後の取り組みの方向性を整理した。

 2019年度より、MaaSの社会実装に先駆的に取り組む地域を支援している。2019年度実施の「パイロット地域分析事業」では、13地域を選定。2020年度からは「地域新MaaS創出推進事業」において、貨客混載やダイナミックプライシング、異業種連携などの事業性や社会的受容性向上のポイント、地域経済への影響、制度的課題等を分析している。2020年度は16地域、2021年度は14地域を採択した(図4)。2022年度も継続されており、その予算は「数億円程度」である。

図4:令和3年度地域新MaaS創出推進事業 採択地域(出所:経済産業省 ニュースリリース

 地域におけるMaaSの実装支援と並行して、2021年度からは「地域や業種をまたがるモビリティデータ利活用推進事業」を実施している。地域や業種をまたがる人流(公共交通)、物流、その他のサービスに関するデータ等を組み合わせて活用することにより、課題解決や新たな付加価値の創出、事業性や社会受容性を検証するのが目的だ。2021年度は日本ユニシス、MaaS Tech Japan、SEEDホールディングスの3者が採択された。

MaaSは地域特性によって3種類に分類できる

 このように日本では現在、様々なMaaSの取り組みが実施されている。だが都市部と地方部では、人口規模や経済規模、交通の状況は大きく異なり、それに合わせてMaaSの取り組み内容も違ってくる。

 本連載では、MaaSの現状を理解するために、国内でのMaaSの取り組みを、(1)都市型MaaS、(2)地方型MaaS、(3)観光地型MaaSの3つに分類する。観光地型MaaSは、都市部/地方部といった地理的特性に関わらず観光客が対象という点で方向性が共通しているため、(1)(2)とは別に分類した。

 ただこの分類は、あくまでも目安である。地方型や都市型と重なる観光地型MaaSや、都市部と地方部の両方に適用できるMaaSもある。それぞれの特性を明確にすることが日本のMaaSの現状の理解に役立つと考えられる。

(1)都市型MaaS : 首都圏・中京圏・近畿圏をはじめとする人口規模の大きい大都市圏や、人口規模が大きい一部の地方都市を対象とする。複数の公共交通を中心に、新しい移動サービスを統合するMaaSが増えている。

(2)地方型MaaS : 人口規模の小さい地方都市の郊外や過疎地でのMaaSの取り組みを対象とする。都市部と比べて交通手段が乏しい地域のMaaSであり、ICTを活用した新しい移動サービスの活用や、相乗りタクシーや自家用有償旅客運送など地方部向けの制度を利用した移動サービスの実施、交通と生活サービスとの連携などが特徴的だ。

(3)観光地型MaaS :地域の人口規模や交通体系の状況に関係なく、観光客向けのサービス提供を主眼としたMaaSを想定する。観光MaaSの取り組みとしては、観光周遊を促進する交通手段の提供に加え、観光スポット情報の配信や観光施設との連携などが特徴として挙げられる。

 次回は、都市型MaaSについて、その取り組み内容や事例を通じた課題解決の視点を紹介する。

本連載は、インプレス総合研究所が発行する調査報告書『MaaSのサービス構築とデータ活用の最新動向2022』(2022年4月)の内容の一部を抜粋・再編集したものです。下記から無料のサンプルPDFをダウンロードいただけます。

     MaaSのサービス構築とデータ活用の最新動向2022