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BIMで変わる建設プロセス(企画・設計プロセス編)【第3回】

東 政宏(BIMobject Japan 代表取締役社長)
2022年8月8日

プレゼン時のモックアップ(模型)は不要にも

 現時点で、国内でBIMが最も活用されている場面は、「施主への提案資料を作成するとき」です。日本建築士事務所協会連合会の調査『建築士事務所のBIMとIT活用実態にかかわる調査報告書(WEB版)』によれば、その割合は81.8%に上ります。

 施主への提案では一般に、外見を実物そっくりに似せて作るモックアップ(模型)を製作しています。提案内容が変わる度にモックアップを作り直すことは、時間も労力もかかれば、施主との最終的な合意形成にも時間を要します。

 これに対し、施主への提案にBIMを利用すれば、次のようなプロセス変革が期待できます。

・施主の要望に応じて、提案内容をデジタルシミュレーションで即座に変更できる
・リアルな内装デザインを複数パターンで提案できる。施主が気に入れば、そのままBIMを使った設計プロセスに展開できる
・立体的、視覚的、動的な提案により、施主との合意形成を迅速化できる

 BIMでは、AR(Augmented Reality:拡張現実)やVR(Virtual Reality:仮想現実)、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI(Artificial Intelligence:人工知能)との連携が可能です。今後は、これら技術を活用することで、より私たちの想像力・創造力に訴えるプレゼンテーションや合意形成の手法が登場してくることでしょう。

ハザードマップなどとの連携で防災策もシミュレーション

 BIMを使った設計時のシミュレーションの重要性は今後、ますます重要になってきます。例えば、地球温暖化の進行により想像を超える自然災害が多発していますが、建設業において特に憂慮すべきは水害です。タワーマンションの地下が浸水したことで停電し、エレベーターや給排水が機能しなくなったという事例もあります。

 こうした災害への対策として、企画・設計段階にハザードマップや気象データなどをBIMと連携し災害リスクをシミュレーションすれば、建物の構造建築に生かせるはずです。政府も「防災・減災が主流となる社会の実現に向けた社会資本整備」についての準備を進めています。

 またwithコロナの時代には、避難施設における3密回避策も課題になります。病院や学校など災害時の避難場所に指定されるような公共性の高い建物に対し、例えば、ウイルス分解装置を配置する際の室内気流シミュレーションをBIMモデルで再現したり、実際の施設内に設置した温度センサーや呼気センサーなどで収集したデータをその建物のBIMモデルと連携したりすれば、施設内の空気の状況を可視化するのにも役立つでしょう(図2)。

図2:BIMモデルを活用した室内気流シミュレーションの例。ウイルス分解装置メーカーGH Advancersの協力を得て作成

 昨今は既存の建物も、360度4K赤外線スキャンカメラ(3Dスキャナー)で撮影すれば、BIMモデルの作成が可能です(図3)。

図3:既存の建物をスキャンした3DモデルにBIMオブジェクトを配置することもできる

 このようにBIMを活用することで、建設プロジェクトにおける上流工程(企画・設計)に、これまで分断されてきた後工程の情報をシミュレーション・可視化が可能になります。実際の工事の前に、内装や構造・設備について、より快適な空間になるようにシミュレーションを重ね設計精度を高めることが、工事における工数削減や生産性向上、CO2排出量の削減につながるのです。

 次回は、建設プロジェクトにおける資材調達と工事のプロセスのデジタル変革について説明します。

東 政宏(ひがし・まさひろ)

BIMobject Japan 代表取締役社長。1982年石川県生まれ。近畿大学理工学部卒業後、2005年野原産業入社。見積もりから現場施工までアナログ作業が多い建材販売の営業職を長く経験。その後、新製品拡販のWebマーケティングで実績を残す。2014年頃から建設業界のムリムダを解決するにはBIMが最適と実感し事業化を検討。2017年スウェーデンのBIMデータライブラリー企業とBIMobject Japanを設立し現職。2020年7月からは野原ホールディングスVDC事業開発部部長を兼務し、AI(人工知能)技術を使った図面積算サービス「TEMOTO」の開発や、3Dキャプチャー技術を持つ米Matterportの国内正規販売代理など、デジタル技術と現場経験を掛け合わせた次代の建設産業の構築を目指している。