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  • スマートシティを支えるBIMデータの基礎と価値

BIMで変わる建設プロセス(企画・設計プロセス編)【第3回】

東 政宏(BIMobject Japan 代表取締役社長)
2022年8月8日

前回、BIM(Building Information Modeling)データの活用が、スマートシティにおけるデジタルインフラの整備そのものであると説明しました。今回からは、BIMデータを使うことで、建築分野における業務プロセスがどのように変革できるのかについて説明していきます。今回は、企画・設計プロセスです。

 建設業における重要ポイントは、そのプロセスマネジメントにあると言われています。建設現場における標準的な工程は、躯体工事(杭やコンクリートの打設)に始まり、外装(窓廻り)工事、配管工事、内装工事へと進みます。しかし、例えば内装工事だけをみても、下地材の施工後に仕上材を施工するなど、すべての工事が相互に関係して積み重なっています。

 そのため、設計ミスによる施工不良があると、前工程に戻って原因を突き止め、そこからやり直すことになり、建材の再発注や技能工の再手配が発生します。つまり、時間の経過に伴い、工期の後半(下流工程)になればなるほど、変更のためにかかるコストが大きくなってしまうのです。

設計プロセスを最も重視するフロントローディングを可能に

 建設業におけるデジタル化の目的の1つは、上記のプロセスマネジメントにおいて、前段階(フロント)にある設計工程を最重要視する「フロントローディング」に転じることにあります(図1)。日本建設業連合会(日建連)は、フロントローディングを次のように定義しています。

 「プロジェクトの早い段階で建築主のニーズをとりこみ、設計段階から建築主・設計者・施工者が三位一体でモノ決め(合意形成)を進め、後工程の手待ち・手戻りや手直しを減らすことにより、全体の業務量を削減し、適正な品質・コスト・工期をつくり込むこと」

図1:建設プロセスにおける設計段階を重視し後工程でのやり直しを廃城する「フロントローディング」のイメージ(『図解入門 よくわかる最新BIMの基本と仕組み』、秀和システムを参考に作成)

 フロントローディングにより建築分野の生産性向上が期待されます。その際に、各種情報を可視化するためのツールになるのがBIMデータであり、フロントローディング実現のカギを握るとされています。

シミュレーションで配管干渉や施工不備、手抜き工事などを回避

 具体例として、商業施設における配管設備を考えてみましょう。商業施設では、天井・壁・床に、ガスや水道、電気、空調の給排管が張り巡らされています。これら配管設備の設計は、上下階の構造に注意が必要で非常に複雑です。

 配管設備の設計士は、配管を頭の中でイメージしながら設計図に落とし込んでいきますが、図面上では立体的な検証は困難です。結果、実際の施工段階で配管の干渉トラブルが発覚し、現場から設計士に何度も質問したり、工事をやり直したりするケースが少なくないのです。

 これに対しBIMを使った設計では、天井や壁、床はもとより、各給排管の寸法情報などが、それぞれのBIMオブジェクトに含まれているため、最適な配管パターンの立体的かつ客観的なシミュレーションが可能になります(表1)。配管設備の設計/シミュレーションの段階から、上下階の内装デザインや構造までが3D(3次元)で多面的に同時に確認できるようになります。

表1:配管設備設計における従来手法とBIMデータ使用時の比較
項目従来手法BIMあり
配管設備設計の難易度簡易に
設計段階での立体的な干渉検証困難可能に
配管の干渉トラブル現場で初めて発覚設計段階で発覚

 さらにBIMでは、すべての設計モデルがデータ連携しています。1カ所を修正すれば、関連するすべての項目が自動的に修正されます。人手による確認で起こりがちな設計間違いや設計漏れ、施工不備を防止できます。

 施工不備や手抜き工事が後を絶たないのは、コストや工期に対する厳しい要求が偽装や手抜き工事を容認してしまう環境にも一因があると思います。BIMオブジェクトを使えばコスト情報も連携できるため、設計段階からコスト管理が可能になります。工事前のシミュレーションにより設計精度が高まれば、適切な工期確保を含めたプロセスマネジメントが容易になります。