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  • スマートシティを支えるBIMデータの基礎と価値

BIMで変わる建設プロセス(維持管理編)【第5回】

東 政宏(BIMobject Japan 代表取締役社長)
2022年10月11日

 遅れている理由の1つが、BIMを扱えるソフトウェアが3D(3次元)モデルの利用を前提とするため、その導入・運用にかかるコストが高いと思われていることです。

 そこで、例えば筆者が所属する野原ホールディングスでは、3D空間スキャン技術を使った維持管理(資産管理)の仕組みを提案しています。建物内部の空間や設備を3D撮影カメラで撮影し3Dデータ化したうえで、そこに維持管理に必要な情報をテキストやPDF、動画など種々の形式で情報を格納するのです。関連情報をWeb上で効率的に管理したり、メンテンナンスの実施時期を設定したりが可能になります。

図1:設備の維持管理に3D空間スキャンデータを活用し、メンテナンス履歴を管理しているイメージ

 維持管理にBIMデータを活用しやすい環境が整備でき、3Dスキャナーを使った建物の3Dデータ化を図れば、例えば新築時の施工過程や竣工時の施工品質確認、改修・修繕時の点検業務では、BIMデータと3Dデータを照合するだけで、補修が必要な箇所を特定し、そこで必要になる建材や設備を自動で判別できるようになります。

 新築時に取り付けた設備機器に関するデータを最新機種のデータに差し替えられるようなBIMデータの提供サービスが登場すれば、設備の更新業務の効率が高まります。現状、設備機器は製造終了後、長くても5年程度しか保管されないことが多く、長期化する建物のライフサイクルとはそぐわないケースが増えています。

IoTと組み合わせたシミュレーションへの期待が大

 維持管理におけるBIM活用のメリットとして大きな期待が高まっているのが維持管理のシミュレーションです。IoT(Internet of Things:モノのインターネット)と組み合わせることで、表1にように、種々の建物の空間までを管理できると考えられるからです。

表1:BIMとIoTを組み合わせた維持管理シミュレーションよる“空間”管理の例
建物空間管理の適用例
病院・病室や廊下など空気状況を自動でモニタリングする(感染症対策)
オフィス・働きやすく、疲れにくい快適な明るさや温度、音響などを自動で調整する
商業施設・混雑状況や環境に配慮して空調・電気などのエネルギーを管理する
・移動手段を提供するMaaS(Mobility as a Service)と連携し、自宅からエントランスまでの経路案内に加え、施設内のショップ情報までを提供する

 さらに街づくりの観点からは、自治体や行政機関における公共施設などの維持管理における効果が期待されています。

 自治体等の公共施設の建設および維持管理・運営においては、民間の資金や経営能力、技術的能力を活用するPFI(Private Finance Initiative)手法の導入が推進されています。民間企業が指定管理者として行政と連携しながら公共施設等を建設・維持管理・運営することで、事業コストを削減し管理効率を高めることで、より効果的な公共サービスの実現を目指します。

 そこに、BIMをはじめとするデジタルツールを適用すれば、PFI事業の運営だけでなく、事業の評価や公共サービスのサーベイランスにも有効だと考えられます。例えば、病院や学校など公共性が高い施設、および公園の遊具や土地の維持管理にデジタルツールを導入するのです。

 公園の維持管理を例にとれば、BIMを導入することで遊具の整備状況や公園の混雑状況などの情報を可視化できます。遊具の整備不良が原因で、遊んでいた子どもが怪我をしては大変ですし、公園を訪れたのに混雑し遊びたかった遊具が使えなければ子供はがっかりです。こうした状況がBIMなどの活用により回避できるようになります。

“不測の事態”への備えとしてのBIMの価値

 上述してきたように、建物の維持管理業務は、非常に手間がかかるうえ、その期間も長期に渡ります。オーナーにしても、管理会社に委託しているからとはいえ、管理会社や建設工事を担当した建設会社が倒産するなど“不測の事態”が起きないとは言い切れません。コロナ禍のような不測の事態は実際に起こりましたし、今後も起こるでしょう。

 そこに建物の完成引渡書類としてBIMデータが存在すれば、建物の実態把握や過去の補修・修繕などの工事履歴をデータとして管理し続けられます。自治体が運営する科学館や図書館なども閉館ではなく、BIMモデルをベースにしたVR(Virtual Reality:仮想現実)サービスや図書の電子貸し出しサービスなど従来にない公共サービスを提供できるかもしれません。

 データやデジタルは決して万能ではありません。ですが、不測の事態にあっても、建物の維持管理や住民の生活が少しでも豊かになるように、BIMが活用できる環境の整備が望まれます。

 次回は、BIMによる建設プロセスの変化の総集編として、業界構造の変革について説明します。

東 政宏(ひがし・まさひろ)

BIMobject Japan 代表取締役社長。1982年石川県生まれ。近畿大学理工学部卒業後、2005年野原産業入社。見積もりから現場施工までアナログ作業が多い建材販売の営業職を長く経験。その後、新製品拡販のWebマーケティングで実績を残す。2014年頃から建設業界のムリムダを解決するにはBIMが最適と実感し事業化を検討。2017年スウェーデンのBIMデータライブラリー企業とBIMobject Japanを設立し現職。2020年7月からは野原ホールディングスVDC事業開発部部長を兼務し、AI(人工知能)技術を使った図面積算サービス「TEMOTO」の開発や、3Dキャプチャー技術を持つ米Matterportの国内正規販売代理など、デジタル技術と現場経験を掛け合わせた次代の建設産業の構築を目指している。