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BIMで変わる建設プロセス(維持管理編)【第5回】

東 政宏(BIMobject Japan 代表取締役社長)
2022年10月11日

第3回からBIMデータを使うことで、建築分野における業務プロセスがどのように変革できるのかについて説明しています。前回は、資材調達および施工管理プロセスの変革を説明しました。今回は、維持管理プロセスにおける変革について説明します。

 建物の設計から施工(工事)、点検や修繕、改修といった維持管理までのプロセスにおいて、建物の一生(ライフサイクル)の圧倒的な部分を占めるのが維持管理です。作ったら終わりではなく、作ってからが始まりです。

 このことは、建物単体だけでなく、街づくりも同じです。昨今はSDGs(持続可能な開発目標)が話題ですが、その目標の1つに「住み続けられるまちづくりを」があります。建物も街も、いかに魅力的であり続け、人々が住み続けられるかが重要です。それだけに維持管理の担当者は、建物の長寿命化に向け、建物や街が持つ機能の維持、ライフサイクルコスト(LCC:Life Cycle Cost)の低減などに苦心しているのです。

完成時に引き渡される書類だけでは現状を正しく把握できない

 建物が完成すると、完成引渡書類がオーナー(施主)に引き渡されます。オーナーは、例えばビルであれば管理会社に維持管理業務を依頼します。それに伴い、完成引渡書類はオーナーから管理会社に引き継がれ、建物の維持管理業務がスタートします。

 完成引渡書類には多数の設計図書が含まれています。ただ、そこには設計時の図面や、施工途中の仕様変更が反映された竣工図面などが混在しています。さらに、維持管理業務は、建物が解体されるまでの長期にわたり、点検・補修・改修などを繰り返す必要があります。

 管理会社にすれば、竣工までの経緯や竣工後の実態を把握しづらいうえに、設備メーカーの担当者の特定が難しいことも多く、建材や設備に関する膨大な資料から維持管理に必要な情報を見つけるのも難しいのが実状です。結果、以下のような課題を抱えることになります。

・竣工された建物の実態把握
・図面の管理。図面の履歴管理や貸出時の守秘義務、必要な時にすぐ閲覧できる保管場所の確保など
・設備機器等の入れ替え時における後継機種の調査
・修繕・改修時における専門知識のある人材の不足

 結果、オーナーまたは維持管理会社は、竣工時の使用部材や設備の詳細を把握するために、施工当時の建設会社や専門工事会社などを介して、メーカーが用意する設備機器資料を確認しながら、実際に使われている資材や設備のデータベースを整えなければなりません。さらに、具体的な維持管理計画を立案するために現場に赴き再調査する必要もあります。

引き渡し時にはBIMモデルも提供されるべき

 BIM(Building Information Model)の誕生当初から、こうした複雑な維持管理業務にBIMを適用しようとする動きがありました。以下のようなメリットが期待できるからです。

・図面の経緯がわかりやすい
・建材や設備の更新時期などの製品情報がわかりやすい
・図面の保管場所を取らない
・維持管理情報の履歴を管理しやすい
・関係者が現地に集合しなくても打ち合わせができる
・維持管理のシミュレーションが可能になる(維持管理計画の立案に役立つ)

 しかし現実には、設計・施工プロセスに比べ、維持管理プロセスへのBIMの導入は遅れています。維持管理への適用を促すために、維持管理用途に適したデータフォーマットの国際標準「COBie(Construction Operations Building Information Exchange)」も策定されていますが、成功事例は限られています。