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  • DXを推進するプロジェクトリーダーの勘所

日本のDX推進プロジェクトは、なぜつまずくのか【第1回】

陳 帥良(ペガジャパン ソリューション・コンサルティング エンタープライズ・アーキテクト)
2022年7月13日

多くの企業が、将来の成長と競争力強化に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性を理解しています。デジタル技術を活用することで、新たなビジネスモデルを創出し、かつ柔軟に改変できるからです。にもかかわらず、DXの推進につまずいているのが現状です。では、どうすれば、効率的かつ効果的にDXを推進できるのでしょうか。

 2020年から続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響もあり、将来に向けて「持続的な成長を目指す必要がある」と考える企業が増えています。そこでは、予測不能な事態にも耐え得る能力の獲得も不可欠です。結果、デジタルテクノロジーを活用しビジネス環境を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)への期待が高まり、その推進に多くの企業が取り組んでいます。

 しかし、そのDXについて、「時間とコストがかかる割には業績が伸びない、もしくは大幅なコストダウンにつながらない」「成果が上がっていない「ビジネスにおける課題解決に結びついていない」といった感想を漏らす企業が少なくないとい話もよく耳にします。

DXを推進するための組織・体制が確立できない

 「あなたの会社はDXを推進できているでしょうか?」との質問に対し、残念ながら多くの企業が「DXを推進するための組織・体制が確立できていないためにDXを上手く推進できていない」と答えるのが実情ではないでしょうか。特に大手企業で顕著なのが「IT部門においてDXに必要なテクノロジーやソリューションに関する知見やノウハウを有している担当者が少ない」という課題の存在です。

 こうした状況に陥った原因の1つが、ビジネス部門とIT部門の協業の限界や組織体制の問題です。かつての業務効率化は、「人がやっている作業を自動化すること」を目的にしていました。結果、システムは事業部門ごとに部分最適で構築され、人材やテクノロジー、ビジネスプロセス、情報などのビジネスケイパビリティ(能力)の全社横断的な活用にまで発展しませんでした。

 そうしたプロジェクトにあってIT部門は、ビジネス部門の指示(要件)に沿ってシステムを開発すれば十分です。そのため、ビジネス要件に対し受動的に動く“弱いIT組織”になってしまうのです。加えて開発プロジェクトの進め方も、全体を定めてから順次開発していく、いわゆるウォーターフォール型が主流になりました。

 また開発プロジェクトの進捗に応じて、社内の開発要員を柔軟にアサインすることが困難なため、開発・保守のほとんどを外部のSI(System Integration)ベンダーに依存してきました。外部のSIベンダーに依存した形でプロジェクトを長年続けてきた企業ほど、DXに取り組むための人材が不足するという副作用に苦しんでいます。

 DXの本質は、デジタル技術を活用して新たな価値提供を創出することであり、ビジネスイノベーションを加速させる取り組みとして多くの企業が期待しています。にもかかわらず多くの企業が、上述した「昔ながらのやり方の副作用」に苦しんでいるのです。

ジョブローテやシャドーITが経験・ノウハウの蓄積を阻む

 ビジネス部門とIT部門の間に障壁を生み、DX推進の妨げになっている2つの副作用を紹介します。

副作用1:ジョブローテーションでDX人材が不足

 伝統的な大手企業によく見られるのが、総合職で採用し社員をジョブローテーション制度により、数年おきにほかの部門やチームに異動させることです。IT部門からビジネス部門に異動する担当者は、せっかくIT部門で手に入れた知識やノウハウが無駄になってしまいます。逆にIT部門に異動してきた担当者は、ゼロからITに関する知識を習得する必要があります。

 結果として、DXを推進できるIT部門の担当者数が足りなくなり、予算を確保して外部のSIベンターから要員を確保しなければなりません。小回りが効かなくなり、DX関連プロジェクトの導入期から成長期、成熟期、衰退期までのライフサイクルにおいて、未知の領域が最も多い導入期の推進で足踏みしてしまうのです。

副作用2:増え続けるシャドーITがDX推進の足かせに

 カンパニー(部門)制を採る組織では、カンパニーの権限が大きく、IT部門を経由せずに、外部のSIベンターに依頼しシステムを開発するケースがあります。ITに関する全社ガバナンスを担うべきIT部門が感知しない、いわゆる「シャドーIT」です。シャドーITが増えると、サイロ化やベンターロックインだけでなく、セキュリティ対策も難しくなります。

 ビジネス部門が単独で作ったシステムの運用管理をIT部門に移管するケースもあります。これはコストが想定以上にかかってしまうという課題があります。コスト増の理由には、(1)重複したビジネスケイパビリティの再利用や最適化ができない、(2)データからインサイトを得ようとしてもデータの集約が困難で、迅速なデータ活用ができないなどがあります。

 こうしたレガシー問題は、DXの推進においては非常に深刻な課題であり、その解消には多くの時間とコストがかかってしまいます。必要なテクノロジーやソリューションの知見・ノウハウが企業に蓄積できてこなかった点も解消しなければなりません。