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  • DXを推進するプロジェクトリーダーの勘所

DXを成功に導くマインドセットチェンジとCoE【第5回】

笹沼 満(ペガジャパン ソリューション コンサルティング マネージャー)
2022年11月18日

前回は、DX関連プロジェクトにおいて、その重要性が注目されているアーキテクトについて説明しました。今回は、DX関連プロジェクトを確実に推進するために必要なマインドセットチェンジと「CoE(Center of Excellence)」について説明します。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)は継続的に推進すべき取り組みです。DXの実現には、ビジネス部門、DX/IT部門、ITベンダーの3者間で、より緊密な協業が必要になります。加えて、従来の考え方のままではDXの推進は難しいため、伝統的な委託開発のマインドセットからの脱却と新たなスキルの獲得(リスキル)も必要です。部門間のコラボレーションを密接にできれば、DXとともに注目を集める内製化への取り組みも加速できます。

ITベンダー依存のマインドセットのチェンジが不可欠

 日本企業のシステム開発スタイルは、従来のウォーターフォール型で外部のITベンダーに委託するケースが圧倒的です。IT部門はITベンダーの管理が主な業務になり、アプリケーションだけでなくITインフラについても外部に任せる企業もあります。IT部門は、ITベンダーの管理面では十分に機能しますが、自社システムの全体像や個々の業務アプリケーションの詳細仕様、将来を見据えたロードマップ、課題事項などを深く理解していないケースも見受けられます。

 要件が明確で、既存業務の効率化を目的とする開発であれば、ウォーターフォール型のほうが向いているという声もあります。しかし、多くのウォーターフォール型開発では、ビジネス部門、IT部門、ITベンダーの間で、要件の認識に対する齟齬(そご)が生まれがちです。結果、ビジネス部門が期待する要件とはかけ離れた成果物が完成することになり、手戻りによる開発プロジェクトの遅延や失敗につながります。

 ビジネス部門、DX/IT部門、ITベンダーの3者が緊密に協業するためには、こうしたマインドセットからの脱却が必要です。

マインドチェンジ1:アジャイル開発の導入

 従来のマインドセットに潜む懸念を解消し、DXを着実に推進するためには、短い開発サイクルで成果を生み出すアジャイル型の開発アプローチが適しています。そこでは、従来の相手任せだったITベンダーとの関係性を見直す必要があります。認識の齟齬を最小限にし、迅速な開発に向けては、ビジネス部とIT部門、ITベンダーの3者間での協力が欠かせないからです。

マインドチェンジ2:ローコード開発プラットフォームの採用

 DXにおいて内製化を積極的に目指している企業では、ローコード開発のツールや環境の有効活用に取り組む企業が年々増えています。『2021年 国内DevOps/開発プラットフォーム ユーザー動向調査』(IDC、2021年11月)によれば、「2021年にローコード開発ツールを導入済あるいは導入中」と答えた日本企業は回答者の4割弱で、「評価・検討中」とする企業を加えると7割を超えます。

 ローコード開発プラットフォームの採用は、コスト削減や既存の業務プロセスの改善を目的にするケースもあれば、ビジネス部門とIT部門、ITベンダー間の協業を実現するため、内製化を目指すためというケースもあります。

 ただ、いずれのケースにおいても「ローコード開発 = 誰でもすぐに使える」ということではありません。自動車の運転に例えれば、マニュアル車に比べて操作が簡易なオートマチック車であっても、運転方法や交通ルールを学ばなければならないのと同じです。プログラミング言語を使って記述するよりも簡易なローコード開発でも、プログラミングの基本知識やルールの学習、スキルの習得は不可欠です。

 既存業務をローコード開発プラットフォームに移行することを契機に、アジャイル開発を段階的に導入しDXを推進する事例も増えています(図1)。成功に向けては、目指すべき内製化の姿をビジョンとして計画し、その実現に向けて着々とプロジェクトを進めていくことが重要です。例えば、次のようなステップを踏みます。

図1:従来の開発スタイルとDXを目指した開発スタイルの比較

 まずITベンダーと共にウォーターフォール型でシステム開発を始め、パイロットとなるユースケースを選定します。そこからビジネス担当者とIT担当者がアイデアを出し合い、試行錯誤しながらローコード開発プラットフォーム上でアプリケーションを開発します。実践を通してチームのスキルが向上した段階で、アジャイル型の開発へ本格的に移行します。