- Column
- DXを推進するプロジェクトリーダーの勘所
DX関連プロジェクトが求めるアーキテクトの役割【第4回】
前回は、DX関連プロジェクトを推進する際に不可欠なプロジェクトの考え方とカスタマージャーニーについて説明しました。今回は、テクノロジーを活用したビジネスバリューの創出において海外で、その重要性が注目されている「アーキテクト」について説明します。
インターネットやクラウドといったテクノロジーの進化・普及により、システムの開発手法は、モノリシック(単一)な独自アーキテクチャーから、必要な機能を複数の小さいサービスで構成するマイクロサービスアーキテクチャーへと進化しました。それに伴い、事業会社がシステム開発に抱く期待も変化しています。
テクノロジーの変化がビジネスにも強いアーキテクトを求める
かつてマイクロサービスの元になるSOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャー)が登場した際、その実践にいち早く取り組んだ欧米企業は、最新テクノロジー合わせて、アーキテクトの役割を定義し、必要な組織作りに取りかかりました。
なぜなら、モノリシックなアーキテクチャーでは、インフラやハードウェア、ミドルウェアなどのテクノロジーが中心になり、アーキテクトという役割が確立できていない組織が多かったからです。インフラやハードウェア、ミドルウェアなど特定分野の専門家(Subject Matter Expert)がアーキテクトの役割を果たしていました。
しかし、ビジネスにおけるデジタル技術活用の重要性が日に日に加速するなか、テクノロジーだけ、あるいはビジネスだけといったアーキテクチャーが通用しづらくなっています。結果、ビジネスとテクノロジーを橋渡しするようなアーキテクト、すなわち「ビジネスアーキテクト」や「エンタープライズアーキテクト」といった人材への重要性が高まっているのです。
DX時代のアーキテクトの役割は、ビジネス戦略の策定への関わりの“深さ”と、特定のテクノロジーに関する専門知識の“深さ”により大きく異なります。ただ、アーキテクトがIT組織の一員であることは共通です。海外企業や一部の日本企業では、(1)ビジネスバリューコンサルタント、(2)エンタープライズアーキテクト、(3)テクニカルアーキテクトからなる体制を確立・強化しようとしています(図1)。
(1)ビジネスバリューコンサルタント
組織の戦略(ビジネスの将来像)を実現するために、潜在的なビジネス上の課題・機会やビジネスバリューを特定し、解決策となる仕組みの決定を促します。ROI(投資対効果)を算出し、ビジネスバリューを明確にしたうえで、ビジネスケース(事業計画)も作成します。そのために、ビジネスリーダーとのコミュニケーションに時間を割くことが多いのが最大の特徴になります。
(2)エンタープライズアーキテクト
組織の戦略と要件を理解し、解決策のポートフォリオとエンタープライズアーキテクチャの定義を支援します。そこでは、設計上の考慮事項やトレードオフ、利点、推奨事項を明確にすることで、ビジネスバリューの可能性を引き出します。
その際、ビジネス戦略とケイパビリティの間にあるギャップを特定し、最適な解決策とアーキテクチャーの導入を推進します。ビジネスバリューコンサルタントと共に、ビジネスの将来像を実現するためのロードマップを策定します。
(3)テクニカルアーキテクト
専門知識を活かし、ビジネスケイパビリティを実現するために必要な技術や非機能要件に対処します。対象技術には、アーキテクチャーのほか、コンテナ技術、インストールや構成、デプロイ、パフォーマンス(性能)、スケーラビリティ(拡張性)、アベイラビリティ(高可用性)などが含まれます。
これら3つの役割に対し、その名称や役割分担は企業によって異なり、細分化されている場合もあります。専任のアーキテクトやコンサルタントを配置せず、「事務企画部」や「オペレーション企画部」といった部門が、こうした役割を担っているケースもあります。
またITベンダーの側では、「カスタマーサクセスマネジャー」という役職を置く事業者が増えています。製品の販売だけでなく、各社の製品/サービスを利用して、クライアントの期待どおり、さらには期待以上のビジネスバリューを実現するためには、顧客とともに戦略的ロードマップを策定しなければならず、そのためには顧客企業と対等なアーキテクトの組織が必要だからです。