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  • 現場のリーダーが考えたDX人材像を示す「DXスキルツリー」

DXの現場導入を進めるテクニカル人材と求められるスキル【第4回】

磯村 哲、西山 莉紗、伊藤 優、中道 嵩行
2022年11月4日

(2)開発ステージで活躍するテクニカル人材

 開発ステージは、実運用のためのシステムを開発するフェースです。技術PoCステージで活躍したテクニカル人材に加え、データ系インフラエンジニアとセキュリティエンジニアが活躍します(図4の左側)。

図4:開発/運用ステージで活躍するテクニカル人材(赤塗りの部分)

データ系インフラエンジニア

 データサイエンティストが解析する計算リソースや、アプリケーションエンジニアが実装するサーバーを管理します。一般的なインフラエンジニアは、はるかに多くの領域をカバーしており、データ分析のためのシステムを担当するテクニカル人材を分ける意味で、データ系インフラエンジニアと呼んでいます。

 機械学習モデルの実行には、多くの計算リソースが必要になります。複雑なシステムでモデルの数が増えれば、なおさらです。実運用を見据えた開発では、実際のシステムが安定してサービスを提供し続けられるように、各実行に必要な計算リソースの割当などを管理しなければならず、それをデータ系インフラエンジニアが支えます。

 実行環境の管理に必要な知識は、データサイエンティストが持ち合わせている場合もあります。ですが、役割を分けることでデータサイエンティストはモデル構築に、より集中できるはずです。

セキュリティエンジニア

 構築する機械学習システムのセキュリティを担保します。アクセス制御や改ざん防止といったソフトウェアセキュリティのほかに、機械学習システム特有の脆弱性にも対応する必要があります。

 例えば近年では、入力データにノイズを注入し機械学習モデルに意図しない出力をさせたり、入力と機械学習モデルの出力から個人情報などを特定したりと、確率モデルの特性を突いた攻撃が指摘されています。これらへの対応を含め、システムが安全に導入・運用できるだけの環境を整備します。

(3)運用ステージで活躍するテクニカル人材

 運用ステージは、構築したシステムを利用してDXの価値を生み出すフェーズです。開発ステージで活躍したテクニカル人材に加え、データアナリストとデータスチュワードが活躍します(図4の右側)。

データアナリスト

 DX活動のプロジェクト的な側面が完了した後に登場し、日々のオペレーションにデータ駆動な風土を定着させる役割を担います。

 DXプロジェクトは、実行すればするほど、プロジェクト終了後も現場でプロセスを使い続けるために奮闘する人材の重要性が高まります。データアナリストは、システムを理解し、その価値を現場の担当者に説明し、改善点を議論することで、次のDX活動の起点を生み出します。そのためデータアナリストに求められる最も重要なスキルは可視化になります。

データスチュワード

 データをどのように蓄積するかをデザインし、その通りにデータが蓄積・管理されているかを監督します。データアーキテクチャーを理解し、その価値を現場の担当者に説明し、解析可能な形で保存するよう促します。

 例えば、全社的なデータアーキテクチャーを定め、どの種類のデータをどこに、どのように蓄積していくかを決めても、実際にデータを保存する現場の担当者が、その考え方に沿ってデータを蓄積できなければ、全社的な価値は享受できません。それだけにデータスチュワードの質は、データアナリスト同様、現場の担当者の間にデータ駆動な風土を定着させる上で重要な役割を担います。

 このように、一口にテクニカル人材と言っても複数の人材が存在し、求められるスキルも多種多様です。ITに関連するスキルだけでなく、現場の担当者とのコミュニケーションが重要な場面も少なくありません。「これなら私も活躍できるかも」と思える人材像が見つかれば、とてもうれしいです。

 次回は、これまでのまとめとして、DXスキルツリーの発表後、それを普及させていく過程で挙がっている、さまざまな議論や今後の活用などについて説明します。

磯村 哲(いそむら・てつ)

小野薬品工業 デジタル戦略企画部 部長。三菱化学、ゾイジーン、モレキュエンスにて研究と新規事業立ち上げを担当。地球快適化インスティテュート チーフアナリスト、三菱ケミカルホールディングス チーフコンサルタント/データサイエンティストを経て2021年に小野薬品工業に入社。データサイエンスとビジネスモデルを軸としたデジタルビジネス変革に従事している。

西山 莉紗(にしやま・りさ)

みらい翻訳 エンジニアリング部 エンジニアリングマネージャー。2006年に日本IBMに入社し、自然言語処理に関する研究と、お客様PoC向けのプロトタイプ開発および商用ソフトウェア開発に従事。2018年に三菱ケミカルホールディングスのDX推進組織にデータサイエンティストとして加入し、デジタル技術を利用した社内文書の業務活用を推進する。現在は機械翻訳エンジン研究開発チームのマネージャーとして、多言語業務に関するお客様のDXを間接的に支援している。

伊藤 優(いとう・ゆう)

三菱ケミカルグループ データ&先端技術部 データサイエンティスト。2017年、三菱ケミカルホールディングスのDX推進組織に発足期より参画。現場で使われる機械学習モデルを志向し、テクノロジーと人との橋渡しに軸足を置く。画像解析を中心に数々のプロジェクトに従事し、製造や研究の現場への導入・運用実績を持つ。

中道 嵩行(なかみち・たかゆき)

製造ベンチャー企業に在籍。三菱化学にてS&OP、事業企画、M&A等を担当し、2019年に三菱ケミカルホールディングスのDX推進組織に参画。チーフデジタルアナリストとしてDXプロジェクトの組成・実行・支援、人材育成の方法論構築などに従事するほか、デジタルビジネスチームのリーダーも務める。2022年より現職。