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  • 現場のリーダーが考えたDX人材像を示す「DXスキルツリー」

DXスキルツリーの活用方法と今後の発展方向【第5回】

磯村 哲、西山 莉紗、伊藤 優、中道 嵩行
2022年12月8日

これまで、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みを推進するのに必要なDX人材像をまとめた「DXスキルツリー」について、その前提になっているDX活動の流れから、DXスキルツリーに登場する人材像を説明してきました。今回は、DXスキルツリーが企業内で実際にどう使われるのか、今後どのように発展していくかを考えてみます。

 「DXスキルツリー」は現状、各シーンで活躍できる人材像と、そこに至る必要条件を記しているにすぎません。具体的なアクションは、それを活用しようとするみなさんに委ねられています。では、どんな活用法がかんがえられるでしょうか。

研修策や育成策などを見極めるためのリファレンスに

 DXスキルツリーの使い方として、まず思い当たるのは、具体的な学習・研修プログラムとの連携です。各スキルに対応する学習素材や研修プログラムが割り当てられて初めて、各社が必要とするDX人材を育てるための方法論が完成するからです。

 最近は、DX人材の育成プログラムが雨後の筍のように現れつつあります。そうした育成プログラムが、DXスキルツリーのどこに相当するのかを参照することは、スキルを習得する個人はもとより、ケイパビリティの獲得を目指す企業にとっても有用でしょう。

 認証制度を作るのも一案です。ポータビリティ(可搬性)のある資格は需要が高いDX人材にとって魅力的なはずです。ただし、関連するスキルのすべてが認証のための試験によって測れる訳ではないことには留意すべきです。

 次に考えられるのは、企業がDXを推進するための体制づくりの支援ツールとしての利用です。後発企業は先行者の成功と失敗を踏まえるべきであり、DXスキルツリーはまさに、その用途に向いています。DXスキルツリーが挙げる24のDX人材を参考に、どの人材を内製化し、どこを外部に求めるのか。どの人材を外部採用し、どこを育成すべきなのかを見極めるのです。

 DX人材の育成に向けては現状、「総DX人材化」「プログラマーを〇〇人育成」など勇ましい掛け声が目立ちます。ですが、必ずしも最終的な姿から逆算しているようには見えません。ここにDXスキルツリーをリファレンスとして導入すれば、社内体制を計画的に構築する一助になるはずです。

DXスキルツリーはDX活動以外にも適用できるのか

 ただ、ここで問題になるのは、このDXスキルツリーが、どの程度汎用的かということです。前提とするDXの流れ自体は、ある程度汎用的であるものの、人材定義には疑問が残るというのが筆者らの正直な認識です。なぜなら24の人材像は、「“普通の企業”からみてスーパーマンを作らないよう慎重にスキルを割り振った結果」だからです。

 例えば、全社的にデジタル技術の理解度やスキルが遥かに高い企業、あるいは新規事業に頻繁に参入しておりプロダクトマネジメントに多くの人が精通している企業などは、人材像を24種にまで細分化する必要はないでしょう。

 またDXスキルツリーに関する質問で多いのは、「前提にしているDX活動の流れはDX以外の取り組みにも当てはまるのか」ということです。実際、多くの部分が一般的なシステムの開発・導入に似ていますし、開発対象もITシステムや、そのアプリケーションの一種であることに変わりはありません。

 ただデータサイエンスの部分に関しては、どれだけ経験があっても成功するかは事前には分からないこと、システムの振る舞いが確率的なため予想外の振る舞いをするときがあること、などの特徴的な点があります。

 しかし、それ以上にDXで顕著な点は2つあります。1つは、従来のITシステムよりも、利用者の振る舞いに直結することです。デジタルの特徴である「つながる」と「データを使う」という側面は、利用者が情報の流れや意思決定に近いところで使われることで質的な変化を引き起こします。単なる効率化とは根本的に異なる点であり、それがゆえに、完成後の価値を早期に見極められる開発の進め方が重要になるのです。

 もう1つは、DX活動においては、ITは一部に過ぎず、変革されたビジネスモデルやプロセスこそが成果物であるということです。つまり、データサイエンスやAI(人工知能)技術を導入しても、変革を伴わなければ、ITにおけるパッケージ導入と大差はありません。デジタル技術の導入に焦点を当ててしまいDXを矮小化することは避けなければなりません。