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  • 現場のリーダーが考えたDX人材像を示す「DXスキルツリー」

DX活動の成果のカギを握るのは「ビジネスリーダー」【第3回】

磯村 哲、西山 莉紗、伊藤 優、中道 嵩行
2022年10月6日

DX活動の推進に必要な人材像をまとめた「DXスキルツリー」について、第1回と第2回では、その前提となるDX活動の流れについて説明しました。今回からは、DXスキルツリーに登場する人材像を個々に説明していきます。今回は、DX活動における“成果物”のあり方を現場に示し、かつスムーズに導入・定着させる役割を担う人材を取り上げます。カギを握るのは「ビジネスリーダー」です。

 図1は、前回までに提示した「DXスキルツリー」です。赤く塗った部分は、今回取り上げるDX人材です。

図1: 「DXスキルツリー」の全体像。赤く塗った部分が今回取り上げる人材

DX活動は“RPG”のように複数メンバーが協力して進めるもの

 実は、DXスキルツリーを考えたメンバーの間では、DXスキルツリーの人材像を「職業」と呼んでいます。RPG(ロールブレイングゲーム)における「職業システム」にヒントを得たためです。つまり、これらの職業(人材像)は、RPGでいうところの「戦士」や「魔法使い」に相当します。

 DX活動ではしばしば「デジタル技術が分かって、業務知識があって、コミュニケーション力のある人」のような“スーパーマン”が求められがちです。しかしRPGでは、複数のプレーヤーそれぞれが異なる職業を担当し、パーティー(チーム)として協力しながら敵を倒していきます。DX活動も同様に、参加メンバーに画一的な役割を求めるのではなく、異なる役割のメンバーが協力することでプロジェクトを前に進められると考えます。

 ここで改めて、DXスキルツリーの書式を説明します。DXスキルツリーにおいては、濃いグレーの箱が「人材(職業)」を、薄いグレーの箱は各人材に求められる「スキル」を示しています(図2)。

図2:DXスキルツリーの書式

 人材の名称は、名刺に表示する肩書きというよりは、DX活動において果たすべき役割を表しており、必ずしも1人の人を示しているわけではありません。DXプロジェクトにおいては1人が複数の役割(人材名)を担当することも考えられます。

 一方のスキルは、例えばデータサイエンティストであれば機械学習のスキルが、事務局なら社内コミュニケーションのスキルというように、人材によって大きく変わります。なるべく現在の“現場”に実在する役割を持つ方が、新しいスキルをプラスアルファで身に付ければ、新たな役割を果たせるように整理しました。

 「新しいスキルを身に付ければ果たせる新たな役割」は、DXスキルツリーでの、基の人材像の上位に定義しています。上位の人材像ほど、複合的なスキルを求められます。ただし注意すべきは、DXツリー上での上下は、人事制度上の上位職を必ずしも表しているわけではないことです。あくまでプロジェクトにおける役割を表しています。もちろん、1つの職業の中でレベルアップしていくことが可能です。

DX活動の成果物はすべて“プロダクト”である

 DXスキルツリーが示す人材は、DX活動における“成果物”を現場に方向付け、スムーズに導入・定着させる役割を担います。では、DX活動における“成果物”とは何でしょうか?

 DXといえば、IoT(Internet of Things:もののインターネット)やAI(人工知能)といったデジタル技術を使って実現する新しいビジネスモデルやビジネスプロセスが強調されていますが、昨今のハイブリッドワークの時代にあっては、自社の業務効率を高めるためのITシステムもDXの成果物と言えるでしょう。これらを筆者らは「広義のプロダクト」だと考えています。

 一般にプロダクトと言うと、ハードウェアやソフトウェアなど、最終的に企業が顧客に提供する製品/サービスのイメージが強いはずです。例えば製造会社が、DX活動の中で、自社製品の不具合を検知するソフトウェアをITベンダーと協力して作ったとしても、その不具合を検知するソフトウェアや、そのソフトウェアを使った新しい検査工程をプロダクトと呼ぶことは、ほとんどありません。

 しかし筆者らは、新しいビジネスモデルやビジネスプロセスなど製品/サービスではないものや、それらを実現するためのソフトウェアや工程、業務改善のためのITシステムなども「プロダクト」と呼びたいと思います。そもそも「プロダクト」は「成果物」の意味を持つ言葉です。

 一般的な製品/サービスとしてのプロダクトの実現においては、プロダクトマネジメントのスキルが求められ、そのスキルを提供する人材として「プロダクトマネジャー」と「プロジェクトマネジャー」が必要だとされています。

 プロダクトマネジャーの役割は、「なぜ(why)、どのような(what)プロダクトを作るか」を決めることです。一方のプロジェクトマネジャーは、「いつまでに(when)、どうやって(how)作るのか」を決めるのが役割です。