- Column
- 医療と健康を支えるデジタル活用の最前線
医療のデジタルツインでは患者と医療関係者が共有できる電子カルテが重要に
「メディカルDX・ヘルステックフォーラム 2022」より、東京大学大学院 大江 和彦 氏
健康・医療情報のデジタル化により利便性や新たな価値を生み出そうと、さまざまな取り組みが進んでいる。だが従来の電子カルテのデータ形式が障害となりデータ活用が困難になるケースもある。東京大学大学院医学系研究科教授の大江 和彦 氏が、2022年8月27日に開催された「メディカルDX・ヘルステックフォーラム2022」(主催:メディカルDX・ヘルステックフォーラム実行委員会)に登壇し、データ活用に向けたデータの標準化や電子カルテのあるべき姿などについて語った。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流は、医療分野にも及んでいる。東京大学大学院医学研究科 医療情報学分野教授の大江 和彦 氏は冒頭、2022年6月に政府が発表した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2022」に、自由民主党の提言として「医療DX令和ビジョン2030」が盛り込まれたことを紹介(写真1)。「このビジョンは、全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DXを同時並行で進めるものです」と説明する。
医療・健康分野のデジタルツインの中核は電子カルテのデータ
政府は「Society5.0」構想において、サイバー空間とフィジカル空間をリアルタイムに結合し、さまざまな現場にDXを起こそうとしている。大江氏は、「医療の現場でもデジタルツインによって変革していくことが重要です」と指摘する。
医療のデジタルツインを支えるデータ資源になるのが、医療現場で記録される電子カルテなどの診療・計測データである。IoT(Internet of Things:モノのインターネット)機器やウェアラブルデバイスから生み出されるデータなども対象だ(図1)。「さまざまなデジタルデータが、臨床医療や生活空間の健康管理に、さまざまな変容をもたらしていくことが注目されるようになります。そのなかで、最も重要かつ出発点となるデジタルデータが電子カルテです」と大江氏は言う。
電子カルテには、診療や健診、介護福祉、感染対策の届出といった医療に関連するデータのほか、業務に関連するデータも含まれている。しかし大江氏は、「電子カルテシステムは、入力から登録、記録/検索、閲覧/管理までの異なるシステムを疎結合させた複合体です。そのため、1つの電子カルテシステムといっても、その目的や導入時期により異なる製品/ベンダーが介在しており、それが標準化を困難にしているのです」と指摘する。
医療情報が個別に蓄積されている現状として、大江氏は、いくつかの事例を挙げた。1つは、厚生労働省が構築した「NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)」。医療行為が共通のコードによって記されており、14年間で、およそ170億ものデータが集積されている。
一方、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)は、医療情報データベース「MID-NET(Medical Information Database NETwork)」を展開している。電子カルテの検査情報や処方情報を匿名化して処理結果を集めるもので、数百万人の情報を元に医薬品の副作用などを分析している。
また国立国際医療研究センターの「診療録直結型全国糖尿病データベース事業(J-DREAMS)」では、糖尿病や腎臓病、狭心症などの電子カルテの記録を標準化した形で集めて全国規模のデータベースに保存し、解析する。
このように、電子カルテをはじめとする医療・健康情報は、異なる規格により異なる形式で保存されている。大江氏は、「データ活用を活発化するためには、データベースに保存されたデータの標準化が必要です」と訴える。