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  • 医療と健康を支えるデジタル活用の最前線

人口減少化で医療領域の未来をつなぐのはデジタル技術と共助

「メディカルDX・ヘルステックフォーラム 2022」より、デジタル庁の村上 敬亮 氏

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2022年11月30日

日本の人口は2008年をピークに2100年には約6000万人弱にまで減少すると推計されている。こうした人口減少社会において「なぜデジタルトランスフォーメーション(DX)が必要なのか」について、デジタル庁で国民向けサービスグループを牽引する村上 敬亮グループ長が2022年8月27日に開催した「メディカルDX・ヘルステックフォーラム2022」(主催:メディカルDX・ヘルステックフォーラム実行委員会)の基調講演に登壇し、DXの必要性とヘルスケア領域におけるDXのあり方について語った。

 「国内に住んでいると気づかないかも知れませんが、日本では貧困化が相当に進んでいます」――。デジタル庁 国民向けサービスグループのグループ長である村上 敬亮 氏はこう指摘する。

写真1:デジタル庁国民向けサービスグループグループ長の村上 敬亮 氏

日本を貧困化させる人口減少と労働生産性の伸び悩み

 貧困化の背景にあるのが人口減少だ。第二次世界大戦以降、日本の人口は高度経済成長を経て約5000万人も増えた。だが、2008年の1億2800万人をピークに2100年には約6000万人弱にまで減少すると推定されている。結果、「労働生産性を上げない限り、日本のGDP(国内総生産)は現在の12分の7になる。これは脅しではありません」と村上氏は、労働生産性を高めることの重要性を訴える。

 日本の労働生産性は2000年以降、頭打ちの状態が続いている。労働生産性を1人当たりGDPと言い換えれば、2001年当時、日本の1人当たりGDPは380万円で世界第2位。トップはルクセンブルグの480万円だった。

 それが現在は、「日本は約430万円と増えているように見えますが、ルクセンブルグは1180万円にまで増加しています。約20年の間に25~30カ国に抜かれました。実質賃金レートもアジアで6~7番目になっています」(村上氏)

 貧困化が進んでいる要因の1つとして村上氏は、「製造業の国内生産額が伸びていないこと」を挙げる。

 高度成長期、雇用の中心は農業などの第一次産業から製造業、つまり第二次産業に移動し、日本全体の労働生産性は高まった。だが現在は、「製造業で吸収し切れなくなった雇用が第三次産業、中でも労働生産性が低い地方のサービス業へ移動しており、労働生産性が上がらないのです」と村上氏は話す。

 サービス業の労働生産性は、製造業を中央に二分されている。製造業より労働生産性が高いのは、金融・保険、不動産、情報通信など都市部で強いサービス業だ。一方、製造業より労働生産性が低いのは、卸売・小売、運輸・郵便、宿泊・飲食、教育・学習など地方に多く残るサービス業である。そのなかで医療・福祉の労働生産性は「下から4分の1のクラスターに入っている」(村上氏)という。

 「これが日本経済の足元の状況です。貧困化を解消するためには、もっと稼げるようにならなければなりません。『稼ぐ経済成長不要論』などと言っている場合ではないのです」と村上氏は強調する。

“長くて遅い”事業モデルを“短くて速い”に変える

 貧困化には、「モノづくり中心からサービス中心の経済へと移行し、価値の考え方が変わってきていることも大きく影響しています」と村上氏は話す。

 例えば、人口増加期の昭和の経済は、購買価値を重視する“長くて遅い”事業モデルだった。「原価120万円の車を150万円で売るような経済であれば、新しい需要動向にコミットして新規の産業を興すより、間違いなく売れる自動車産業のサプライチェーンの中に新規参入する方が合理的です。これがモノづくりニッポンの姿でした」(村上氏)

 しかし人口減少期に入った令和では、利用価値を重視する“短くて速い”事業モデルへの移行が求められる。「従来の長いバリューチェーンにぶら下がっていると確実に儲からなくなり、給与も下がってしまうためです」(同)

 「人口減少に伴い売上高が12分の7になるのなら、従業員数も12分の7にすれば良いのではないか」といった短絡的な考えもある。だが村上氏は「実際問題として、ライバル会社より先に従業員を12分の7にすることは難しい」と指摘する。