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  • DX時代の障壁と突破口

いつまでも日本企業がDXの成功にたどり着けない理由(障壁編)【第1回】

塩野 拓、皆川 隆(KPMGコンサルティング)
2023年1月10日

日本企業のDX推進を妨げる3つの障壁

 なぜ日本企業のDXは成立しないのか。DX推進を妨げる障壁としては、(1)経営層の領域に存在する事象、(2)事業部の領域に存在する事象、(3)既存のIT部門の領域に存在する事象の3つがある(図2)

図2:日本企業のDXにおける成功を阻む3つの障壁

第1の障壁:経営層の領域に存在する事象

 多くの企業は、株主やマーケット、従業員に対し、3~5年の中・長期的な理念や、ビジョン、経営戦略、マテリアリティ(組織にとっての重要課題)などを中期経営計画として示している。

 中期経営計画には、経営やビジネス視点での方向性が具体的に指示されている。さらに昨今は、デジタルに関わる方針を含む企業も見受けられつつある。だが、ほとんどの場合、「全社DXの推進強化」や「データドリブン経営を進める」といったキーワードに触れているのみで、経営戦略に整合した具体的な全社・事業部ごとのデジタル戦略やデジタル施策まで述べられていないことがほとんどだ。

 DX推進を任された事業部リーダーは、経営層から示された経営戦略や事業戦略を踏まえて、経営・事業に資するデジタル施策を立案・実行していく必要がある。にもかかわらず、経営層から示されるデジタル戦略に具体性がない、もしくは内容が不足しているため、デジタル施策を実行レベルに落とすことが困難になっている。

 さらに、全社のデジタル戦略をコミットできているCEO(最高経営責任者)/CIO(最高情報責任者)/CDO(最高デジタル責任者)が不在、かつ推進度合いを定量的に測定するKPI(重要業績評価指標)も未定義な状況が目立つことが多い。

 これらの事象により事業部は、経営層からのディレクションや予算執行の支援方針があいまいなままに、自助努力かつ手探りでDXを進めることになる。自分たちで外部のベンダーを探しだし、彼らと何らかのデジタル施策を推進しようとする。

 例えば、AI(人工知能)技術を用いたPoC(概念実証)をやってみるのが、その一例だが、テクノロジーに関する専門知識の不足からベンダーとは共通言語を使った会話ができず、要望した結果が得られないケースが発生する。

 そうしたことを繰り返しているうちに、「経営層から、あいまいながらもDXへの指示が出されたからデジタル施策を進めている。しかし、DXのための手段であるデジタル技術の適用が目的化しているのではないか」という思いすら抱くようになる。結果、確実に”DX疲れ”を感じ始め、DXのスピードを遅らせていく。

第2の障壁:事業部の領域に存在する事象

 事業部間の“横の情報連携”も図れていない。場合によっては、2重投資になったり、他部門の成功ノウハウの共有すらできず、サイロ化がますます進んでしまったりしてしまう。経営層からのあいまいなディレクションと、各事業部の活動との間には当然、不整合が生まれてくるだろう。

 DXをコミットする経営層が不在であれば、デジタル施策の推進に係る予算稟議の申請・承認、つまり活動費の捻出も相応に難航する。経営層の意思決定やコミットメントがあいまいなままでは、DX推進を任された事業部リーダーは何を目指し、何をすればよいかが分からず、DX推進力を低下させてしまうだろう。

第3の障壁:既存のIT部門の領域に存在する事象

 一方で、既存のIT部門は多忙を極めている。基幹システムの保守・メンテナンス、基本ソフトウェア(OS)やネットワーク、セキュリティの配備や維持、日々運用される社内ITに関する問い合わせ対応などで、IT部門のリソースがひっ迫している企業がほとんどだ。事業部が進めるデジタル施策へのサポートが限定的かつ不十分な状況になることは容易に想像できる。

 日本企業の多くは、DXを継続的かつ着実に推進するためのプロセス(アジャイル手法など)が定義されていないことがほとんどだ。PoC以降、どのようにDXを進めてよいか分からない状況も散見される。人材面においても、事業部門やIT部門では、先進的なデジタル施策を推進できる新しいスキルを有したメンバーが不足している状況が多く見受けられる。デジタル化に関わる知見の共有や共同作業のためのプラットフォームが未整備であるがゆえに、非効率な状況が生まれがちである。

 IT部門の中でも、デジタル技術への知見を持つ一部のメンバーがアドホックに活躍し、経験やナレッジを蓄積・活用する努力をしてはいる。にもかかわらず、最新の導入プロセスを駆使してもDXの効果・品質を最大化できないという結果を招いているが実状である。

 IT部門の協力が限定的であるが故にDX推進を任された事業部リーダーは、具体的にデジタル施策を推進するために必要な「不足しているデジタルスキルの補完」や「自社の既存ITへの影響や有効活用方針」を得られず、DX推進が困難になるのである。

 次回は、これら3つの障壁が引き起こすDX推進における課題を明示するとともに、その改善策を提案する。

塩野 拓(しおの・たく)

KPMGコンサルティング パートナー。日系システムインテグレーター、日系ビジネスコンサルティング会社、外資系ソフトウェアベンダーのコンサルティング部門(グローバルチーム)などを経て現職。製造・流通、情報通信業界を中心に多くのプロジェクトに参画してきた。RPA/AIの大規模導入活用、営業/CS業務改革、IT統合/IT投資/ITコスト削減計画策定・実行支援、ITソリューション/ベンダー評価選定、新規業務対応(チェンジマネジメント)、PMO支援、DX支援などで豊富なコンサルティング経験を持つ。

皆川 隆(みながわ・たかし)

KPMGコンサルティング シニアマネジャー。外資系コンサルティングファーム、外資系ソフトウェアベンダーのコンサルティング部門、国内系コンサルティングファーム等を経て現職。業種/業界を問わず、DXを中心とした構想策定からオペレーション変革やシステム開発までの多種多様なプロジェクトを経験してきた。特に業務・テクノロジーの垣根を超えたコンサルティングの経験が豊富である。