• Column
  • DX時代の障壁と突破口

いつまでも日本企業がDXの成功にたどり着けない理由(障壁編)【第1回】

塩野 拓、皆川 隆(KPMGコンサルティング)
2023年1月10日

DX(デジタルトランスフォーメーション)に全社として日々挑戦している日本企業が増えている。だが残念ながら「成功している」と断言できる企業は少ないのが実状だろう。今回は、各企業の事業部でDX推進を任されたリーダーを対象に、全社DXの鈍化につながる障壁と、それを打破するための突破および推進方針について、提言したい。

<第1回のポイント>

  • DX(デジタルトランスフォーメーション)は、「全社事案」かつ「自分ごと」として、EX(Employee Experience:従業員体験)とCX(Customer Experience:顧客体験)に対してデジタル技術を活用してデザインし、推進していく必要がある
  • 日本企業で全社DXが成功しない理由は、経営層・事業部・IT部門の課題に起因している

 DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた取り組みは一過性ではなく、数年あるいは数十年にわたる“終わりなき進化を遂げていく営み”である。だからこそDXは、「全社事案」として、かつ「自分ごと」としてEX(Employee Experience:従業員体験)とCX(Customer Experience:顧客体験)に対してデジタル技術を活用しながらデザインし、それを推進していく必要がある。

 そして変革の魂は常に事業の中に存在する。だからこそDXは、企業の各部門が核になって推進すべきである。DXに一律の正解はない。企業や団体が自らの組織にとって最適なDXを検討・実行・最適化していくべきだ。外部の人間がやってきて、実行・解決してくれるような取り組みではない。

従来のIT化は単純な置き換えによる対症療法に終わっている

 よく聞かれる問いに、「DXと従来のITとの違いは」というものがある。筆者は次のようにとらえている(図1)。

図1:IT化(デジタライゼーション)とDXの違い

 従来型のIT化(デジタライゼーション)は、バリューチェーン上に内在する業務を部分的、かつ一部門に閉じた範囲でデジタルソリューションに置き換える “単純置き換え”活動である。場合によっては、一部業務を見直したうえでデジタルソリューションを適用するケースもある。

 だが一連の業務プロセスにおいては、「人 → デジタル → 人 → 人 → デジタル・・・」というように、点と点のデジタル化といった対症療法にとどまっており、部分最適化された結果をもたらすアプローチに過ぎない。懸命に業務に邁進してきた結果、多くの企業が、この段階で深化し、留まってしまいやすい性格を持っている。

 一方のDXは、以下に挙げるように、線や面への昇華を意識したアプローチである。

  • デジタル技術を活用し、経営ならびに組織、事業のあり方全体(バリューチェーン/収益化領域)を変革し、組織横断的にビジネスモデルを再定義する
  • 顧客行動を予測的にデザインし、顧客接点とサービスをアップデートする
  • 従業員のリテラシーを高め、働き方改革を促進する

 つまり、経営・事業・顧客接点・従業員など、企業を構成する、あらゆる要素の位置づけを全体的に変革・アップデート・再定義することを起点として実行していく行為なのだ。

 事業環境はリアルタイムに変化し、顧客接点は多種多様だ。「現場」という言葉すら、ひとくくりには語れない。働き方も従業員それぞれで異なり、対面やリモートの区分けを超えて増え続けている。2022年時点では、「事業全体の変革」「サービスのアップデート」「働き方改革」のいずれもがチームジョブではなし難い。つまり、委員会やタスクフォース、プロジェクトチームを組成し、役員がその報告を待っているような従来モデルでは、DXの本質にあたる改革は成立しようがないのである。