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  • DX時代の障壁と突破口

DX推進現場を加速するデジタル戦略の重要性【第3回】

塩野 拓、竹ノ内 勇太(KPMGコンサルティング)
2023年2月6日

自部門の事業にとっての“デジタル”を定義する

 最近は多くの企業や経営者が、「自社にとってのDXの定義とは?」という問いに答えられるようになってきた。しかし、DXの実行性を意識した具体性のある「自社にとってのデジタルの定義とは?」という問いに対してはどうだろうか。この問いは重要でありながらも、DXを推進している、もしくは推進予定の多くの企業であいまいになっている。

 アナログの対義語としての広義のデジタルの観点から見れば、メールや基幹システムは、いわゆる「IT(情報技術)」だと認識されているものの、多くはデジタルに包含して捉えられている。一方で「メールはデジタルなのか?」と違和感を覚える人がいるように、デジタルの定義は人それぞれに理解が異なり、組織内で共通認識が形成されていないことが多い。経営層がDXを全社戦略に掲げていても「デジタルの定義」が明示されていることは稀だ。

 そうした全社戦略を受けてDX推進の主体となる各事業部が、「デジタルの定義」をあいまいなままに推進に着手してしまうと、次のような問題が発生する。

  • 事業部内でデジタルに対する共通認識(特にデジタルとITの違い)が形成されず、デジタル推進に係る意思決定が遅延する。意思決定の段階に至っても「それはデジタルなのか?」といった感覚的な意見に基づく議論が繰り返され、意思決定・合意形成に至らない
  • デジタルの定義があいまいで、事業部内でのデジタル施策の発案が滞る。既存ITの延長線上の新規性のない施策しか出てこない、事例など情報収集が的を外していてアイディエーション(発案)の効率が悪いなどが起こる
  • デジタル施策とIT施策の予算の境目が不明確になり、近視眼的な、既存事業を守るIT施策にほとんどの予算が割かれてしまい、デジタル施策への予算配分が縮小し、DX進捗が鈍化する

 特に、「デジタル」と「IT」を分離してDXを推進している企業では、このような問題が散見される。これらの問題を回避するためには、DXのビジョンと、組織風土、求めるDXのスピードを踏まえてDXを推進することが重要である。

 図2に、「テクノロジー構成要素」や「投資目的」でデジタルとITを区分したサンプルイメージを提示する。これは一例であり、デジタルを事業戦略上、どう位置付けるかによっても、自部門にとってのデジタルの定義は大きく変わってくる傾向にある。より重要なことは、すべてのステークホルダーが理解できる「デジタルの定義」を策定し、共通認識を形成することである。

図2:「デジタルの定義」に関するサンプルイメージ

 「デジタルの定義」に一律の答えはない。デジタル戦略の立案の前に、「デジタルを事業戦略上にどう位置付けるか」「自部門にとってのデジタルは何なのか」を定義し、共通認識を形成することが、DXを強力かつ迅速に推進する一翼を担うのである。

 そして事業戦略にも変化があるように、デジタルの定義も変化していく。事業の変化、テクノロジーの進化に合わせて、「DXに資するデジタルとは何なのか」を常にアップデートしていく必要があることにも留意していただきたい。

 次回は、デジタル戦略の立案手法について解説する。

塩野 拓(しおの・たく)

KPMGコンサルティング パートナー。日系システムインテグレーター、日系ビジネスコンサルティング会社、外資系ソフトウェアベンダーのコンサルティング部門(グローバルチーム)などを経て現職。製造・流通、情報通信業界を中心に多くのプロジェクトに参画してきた。RPA/AIの大規模導入活用、営業/CS業務改革、IT統合/IT投資/ITコスト削減計画策定・実行支援、ITソリューション/ベンダー評価選定、新規業務対応(チェンジマネジメント)、PMO支援、DX支援などで豊富なコンサルティング経験を持つ。

竹ノ内 勇太(たけのうち・ゆうた)

KPMGコンサルティング シニアマネジャー。日系大手SIer、外資系ソフトウェアベンダーのコンサルティング部門を経て現職。業種・業界を問わず、DX構想策定、AI・RPAなど先端テクノロジーを活用した業務改革、デジタルマーケティング導入、DXに伴う人材教育・組織変革(チェンジマネジメント)など、DX推進に関わるプロジェクトに多くの経験を持つ。