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DX推進現場を加速するデジタル戦略の立案手法【第4回】

塩野 拓、竹ノ内 勇太(KPMGコンサルティング)
2023年2月20日

デジタル戦略を立案する人材の役割を定義する

 デジタル戦略の位置付け・立案アプローチが確立できれば、次は、デジタル戦略立案における人材の役割を定義する。誰が、どのレベル(戦略)まで責任を持って定義するのか、それを定義するに適した役職(定義すべき役職)を決定していく(図2)。

図2:デジタル戦略立案策定の役割の例

 各事業部では、事業に精通し、責任を持つべき事業部の責任者が、デジタルや推進の方法論に精通しているDX専門組織のサポートを受け、事業戦略と整合するデジタル戦略とアクションプラン(デジタル施策)を策定していく。いずれの戦略レベルでも大事なことは、次の3点だと考える。

  • 事業部リーダーが主導し、各レベルの意思決定に適した戦略レベルや施策にコミットメントできる役割・役職者を巻き込み、コミットメントを醸成すること
  • 事業部内でデジタルに精通した人材を上流の工程から配置すること。事業部内に該当する人材が不在であれば、DX専門組織やIT部門などに協力を働きかける
  • 「理念・ビジョン」「経営戦略」と整合しており、これらに資するテーマとなっているかを確認しながら、デジタル戦略やアクションプラン(デジタル施策)を策定すること

 デジタルに精通した人材は、事業部内に必ずしもいるとは限らない。DX専門組織やIT部門からの支援が必要になる場合も当然あると思われる。デジタル技術やトレンドは日進月歩であり、日々の定常業務を遂行しながら造詣を深めることは、現場に相応の負担を伴うものである。結果としてデジタルで実現されることの理解不足により施策が立案されず、デジタル施策を推進する段階になって初めてデジタルに精通した人材を配置するというような傾向が多く見られる。

 そのような場合、より重要な戦略レベルからデジタルに精通した人材を配置することを推奨する。

DX専門組織頼みとせず事業部門は主体性をもって動く

 通常、事業戦略やデジタル戦略に基づいて各事業部門がデジタル施策を立案することが多い。だが、この段階では、各事業部門で起案された各種デジタル施策は、全社横断の施策や事業部門間での重複がある状態がほとんどである。

 異なる事業部門が同一のデジタル施策を提起した場合、事業部門間で優先度やスコープが異なっていることが多いだけでなく、既存の社内IT施策との整合性や依存関係も整理されていない状態が想定される。

 デジタル戦略からデジタル施策を導出・最終化するためには、全社として目指すDXの姿について再度、整合性を維持するために、DX専門組織によるサポートが必要となることは言うまでもない。

 各事業部から見た場合に重要なことは、部門横断の取り組みが必要になった際に主体性を失わないことだ。前述のとおり、部門間の整合性の維持や適切な優先順位の判断のためにDX専門組織によるサポートが必要であることは間違いない。だが一方で、事業部にしか分からないこと、できないこともまた多い。

 なぜなら、DX専門組織は新しい組織であることや、デジタルに精通した専門家を外部から採用していることが多いだけに、事業への理解が浅く、リソースも不足している状態であることがほとんどだからだ。

 ここで、「DX専門組織のメンバーは現場が分かってない」「横断の取り組みなのに旗振り役のDX専門組織が進めてくれない」などと他人事にしていては、抜本的な変革にはたどりつけない。事業部が主体であるという前提に立ち、事業部がイニシアチブを取って戦略、アクションプランの策定を進めることが重要である。

 策定する戦略やアクションプランが「理念・ビジョン」や「経営戦略」と整合していることも、事業部が主体的に整理し、関係者と確認しながら推進する。それにより、事業部にとどまらず、組織全体の成長に資する変革に昇華させられる。

 事業環境の変化は近年、加速度を増している。全社戦略や事業戦略の見直し、もしくは、デジタル戦略の進捗状況や市場動向に合わせ、デジタル戦略やアクションプラン、あるいは推進スキームも見直しが必要になる。そうした変化に対応できるよう、デジタル戦略を柔軟に見直せるプロセスを事前に定義しておくことが重要だ。

 次回は、DX推進現場が求めるデジタル人材像について解説する。

塩野 拓(しおの・たく)

KPMGコンサルティング パートナー。日系システムインテグレーター、日系ビジネスコンサルティング会社、外資系ソフトウェアベンダーのコンサルティング部門(グローバルチーム)などを経て現職。製造・流通、情報通信業界を中心に多くのプロジェクトに参画してきた。RPA/AIの大規模導入活用、営業/CS業務改革、IT統合/IT投資/ITコスト削減計画策定・実行支援、ITソリューション/ベンダー評価選定、新規業務対応(チェンジマネジメント)、PMO支援、DX支援などで豊富なコンサルティング経験を持つ。

竹ノ内 勇太(たけのうち・ゆうた)

KPMGコンサルティング シニアマネジャー。日系大手SIer、外資系ソフトウェアベンダーのコンサルティング部門を経て現職。業種・業界を問わず、DX構想策定、AI・RPAなど先端テクノロジーを活用した業務改革、デジタルマーケティング導入、DXに伴う人材教育・組織変革(チェンジマネジメント)など、DX推進に関わるプロジェクトに多くの経験を持つ。