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DX推進現場に所属するメンバーに求められるデジタル人材像【第5回】

塩野 拓、三谷原 啓(KPMGコンサルティング)
2023年3月6日

DX推進人材に必要なスキルを定義し学習・成長のモチベーションに

 各部門が必要とするDX推進人材像はデジタル戦略により異なってくる部分もある。図5では、一例として多くの高度DX推進企業が必要とするスキル要件とスキルレベルを示す。

図5:5つのスキルカテゴリーと人材像・スキルレベル

 こうした要件とレベルは、DX専門組織が主導し作成するものであり、実際の現場で定義するのは難しいとは思う。だが、定義はしなくても、人材像を明確にするためのツールあるいはマイルストーンとして参考にし、学習・成長のモチベーションを維持していくことが重要である。

 この例では、DX推進機能ごとの職種・役割と、担当する実行タスクの関連・体系は示してはいない。だが結果として、図5に示すようなスキルカテゴリーと具体的スキルを洗い出すことを推奨する。具体的スキルはDX専門組織が現在のトレンドを分析し、将来必要になると思われるスキルを予測したうえで整理・定義していく。

 次に、デジタル人材のキャリアパス(人材像の階層)ごとに、どのレベルのスキルを保有すべきかをマトリックス型のテーブルとして定義する。

 スキルレベルは次のように定義していく。

Level 1 :最低限の基礎知識を有する
Level 2 :上位者の指示の下、実行・調整できる
Level 3 :独力で実行・調整できる
Level 4 :会社に教育できる
Level 5 :社内をリードしている

 保有スキルの基本的な考え方としては次のような階段を作っていく。

  • DX専門組織のトップ層は、おおむねLevel 5まで到達している
  • DX専門組織の上位層は、おおむねLevel 4まで到達している
  • チームリードは、おおむねLevel 3まで到達している
  • プロジェクトオーナーは、Level 2に5割程度まで到達している
  • チームメンバーは部分的にLevel 1~2まで到達している

 このようなスキルマトリックスを詳細に定義し、さらに前述したデジタル人材のキャリアパスと併せたデジタル人材育成方針について、経営層がコミットメント・発信していく。それにより、各人材が納得感を持って自身の目標と、それに至る道筋を明確に理解・設定でき、スキルアップとデジタル施策推進の貢献を目指せるのである。

 DX専門組織にもこのスキル要件は当てはまる。だが、現場のDX推進人材に対しては、業務知識とデジタルを実際の事業・業務に実装する部分において、DX専門組織より高いスキルが求められる。

 逆にデジタル技術のスキルは、DX専門組織からの支援を受けて実装することを推奨する。事業部メンバーにデジタル技術スキルを保有するメンバーが存在することは極めて稀であり、また高度な専門性が求められるため、教育・育成に相応の年数を要するからだ。

 各人材像のスキルレベルを最初から具備した人材の登用・獲得は、とりわけ日本においては容易ではない。むしろ、自部門に必要な推進機能の要件と照らし合わせ、一部のスキルを持つ人材を育成するなど、スモールスタートから始めることも有益なアプローチの1つと考える。

 DX推進人材を初期段階において外部から採用することは推奨しない。特に、自社のビジネスを理解している必要があるチームリード(TL)は、内部人材からの擁立が推奨される。プロジェクトオーナー(PO)やチームメンバーも、現行の業務メンバーやリーダーにITリテラシーやDXへの考え方を教育・育成する方法が採れる。

DX推進人材のキャリアパスではデジタルと業務知識の両立を

 どの企業にも、「主任 → 係長 → 課長 →部長 → ・・・」と昇進していく人事評価基準(キャリアパス)が存在することだろう。この制度は、広範囲かつ一般的な従業員に対しては正しく機能していると思われる。

 だがDX推進人材は、デジタル化の時代に即して一般の従業員が置き換わっていくべき人材である。そのため、現時点の人材キャリアパスにデジタルスキルを含めて評価するように変化していかねばならない。一般的な職位に対するデジタル推進人材に必要なスキルを図6に示す。

図6:DX推進人材のキャリアパスの例

 DX推進人材に必要なスキルを事業部門の中だけで習得することは難しい部分がある。そのため、DX専門組織との定期的な人材交流や研修により、先進のデジタル技術に関するスキルと、現場の業務知識を両立できるキャリアパスを考える必要がある。

 各部門でのDX推進人材は、部門内にとどまらず、デジタルに関する知識やスキルを広く獲得することで、「デジタルを活用できる現場の人材」として成長するだろう。なお、これらの取り組みは、経営層の理解と、人事部門との連携・合意が前提になることは言うまでもない。

塩野 拓(しおの・たく)

KPMGコンサルティング パートナー。日系システムインテグレーター、日系ビジネスコンサルティング会社、外資系ソフトウェアベンダーのコンサルティング部門(グローバルチーム)などを経て現職。製造・流通、情報通信業界を中心に多くのプロジェクトに参画してきた。RPA/AIの大規模導入活用、営業/CS業務改革、IT統合/IT投資/ITコスト削減計画策定・実行支援、ITソリューション/ベンダー評価選定、新規業務対応(チェンジマネジメント)、PMO支援、DX支援などで豊富なコンサルティング経験を持つ。

三谷原 啓(みたにはら・けい)

KPMGコンサルティング シニアマネジャー。大手通信教育会社システム子会社にて顧客管理システム構築、DMマーケティング支援を担当後、社内BPR・人事制度改革を担当。持株会社に出向後、グループ間接業務SSC化・グループ共通人事システム導入を担当。KPMGコンサルティング株式会社のCorporate Transformation Strategyのマネジャーとして現職。デジタル戦略策定、DX支援などのコンサルティングサービスを提供。