DX推進現場に所属するメンバーに求められるデジタル人材像【第5回】

＜第5回のポイント＞

• デジタル人材像を正しく導出するには、「必要なDX推進機能の定義」 → 「必要なデジタル人材定義」 → 「必要なデジタル人材教育計画の立案」といった手順で進めるべきである
• DX実現に向けた人材像と役割には、（1）チームリード（TL）、（2）プロジェクトオーナー（PO）、（3）チームメンバーの3種が存在し、DX専門組織の職種に相当するデジタルリテラシーの習得が推奨される
• スキルの定義においては、デジタル専門組織の定義に準拠しつつ、現場で必要な業務の知識、事業への実装スキルが高いレベルで要求される
• デジタル人材は、一般的な役職機能に対応する人材が成長し置き換わっていくものであり、既存の人材キャリアパスに追加し変化させていくべきである

　デジタルトランスフォーメーション（DX）における現場の推進主体は、現場のデジタル人材である。しかし、この要員の継続的な育成・確保に悩んでいる企業が非常に多い。デジタル人材をいかにして育成・確保し、その成長を促していくかが極めて重要なポイントになる。

図1：「DX推進標準化モデル」と今回、解説する領域

なんのためのデジタル人材像なのかの目的を明確にする

　まず注意すべきは、DX専門組織に必要なデジタル人材像と、DX推進組織に求められるデジタル人材像は異なることである。第1回で解説したDX専門組織が実現するのは、「全社共通の柔軟なDX推進の仕組み構築・提供」を通じた「事業部の主体性を尊重するソフトガバナンス」である。そのために、「全社視点でデジタル施策の立案とガバナンスを管理する力」と「デジタル技術そのものへの深い知識」が必要になる。

　これに対してDX推進組織が活躍する現場では、「DX専門組織がもたらす技術や知見を基にデジタル技術を現場へ実装できる力」、すなわちデジタルを活用できるだけのスキルが求められる。デジタル技術を活用すれば、どんなことができるかをイメージしたり、具体的にデジタル技術に求める要件を明確化したりすることが重要になるからだ。

　にもかかわらず、そのようなスキルを保有している人材の定義・育成は、どの企業でもなされていない、あるいは、できていないと思われる。なぜなら多くの企業が、デジタル活用スキルを持つ人材の獲得や教育に相応のコストを要することはもちろん、「いったい何をするためのデジタル人材なのか」という目的が不明瞭な状態にあるからだ。

　DX推進現場が求めるデジタル人材像を定義するために、その姿を正しく導出するためには、次のような手順で進めることを推奨する（図2）。

（1） 現場におけるDX推進人材の定義
（2） 現場のデジタル推進に求められるデジタル人材の定義
（3） 必要なデジタル人材の教育計画の立案

図2：デジタル人材像導出のアプローチ

　まずは、DXを推進する各事業部門のビジネス戦略を定義する。そのうえで、DX専門組織がもたらす技術や知見を基に、現場でのデジタル戦略の推進に必要な各事業部門の「DX推進機能」を導出し定義する。

　次に、各事業部門におけるDX推進人材の役割を明確に定義する。そこから、それぞれの実行タスク、タスクの推進に必要なスキルを明確にし、DX推進人材の要員数を導出し定義する。

　この段階で各事業部門のデジタル施策推進の活動に整合したデジタル人材像が目的を持って定義され、部門内の人事方針決定者にも納得されやすい人材リクエストを提示できるだろう。

　そこでは、ただ単にデジタル人材を獲得・登用するだけではなく、その後いかに教育を進めていくのかという育成計画も併せて策定する必要がある。組織にとってデジタル人材の登用は一過性の事案ではないからだ。

　デジタル人材の育成に向けては、現状のデジタル人材スキルを把握したうえで、目指すべきデジタル人材スキルの目標地点（マイルストーン）を決定し、現場での教育方針の策定と教育マテリアルの選定を進め、育成計画を立案・実行しなければならない。

　いずれにせよ、各事業部門のビジネス戦略から落とし込むアプローチが最も合理的であり適切である。一方で、そこを起点とするがゆえに、事業部門に必要なデジタル人材像、獲得・登用の時期は、その企業ごとに異なるはずだ。以下では、（1）DX推進人材の役割とタスク、（2）DX推進人材のスキル、（3）DX推進人材のキャリアパスの順に解説を進めていく。